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【コラム】戸塚啓

観客獲得のために必要なこと

[ 2011年2月12日 06:00 ]

 先ごろ発表された『Jリーグスタジアム観戦者調査2010 サマリーレポート』によると、観戦者の平均年齢は38.2歳となっている。Jリーグは間もなく19年目のシーズンを迎えるから、93年の開幕に10代後半から20代前半あたりで立ち会った人たちが、この国のサッカーリーグを支えていることになる。

 38.2歳という平均年齢からは、相反する二つの分析が成り立つ。Jリーグ開幕当初からの固定層がついているというプラスの側面を読み取れる一方で、若い世代を取り込むのにいまひとつ苦労している現実が滲み出ている。

 特定クラブを10年以上応援している人が33%を占め、シーズンチケットの購入者は40%を超えている。観戦頻度がJ1で年に12.3回、J2では14.2回というデータからも、Jリーグが固定層に支えられていることが透けて見える(観戦頻度は09年のもの)。

 レポートによれば、「自由に使えるお小遣いの一カ月平均」は3万3800円という。この金額が多いか少ないかはともかくとして、消費を抑えようとする傾向が強まっているのは間違いない。不況という二文字は、僕らの生活に深く染み込んでいる。

 何から出費を減らそうかと考えれば、残念ながらスポーツ観戦は上位に入りそうだ。テレビ中継のある試合なら、「わざわざスタジアムに行かなくても…」と考えても不思議でない。

 テレビなら複数の試合を観戦できるし、退屈ならすぐにチャンネルを変えることもできる。録画をしなくても番組をキープできる機能が、最近のテレビにはついている。ハーフタイムまでトイレを我慢しなくてすむ。3Dテレビまでが広く一般に普及したら、スポーツが受ける打撃は相当なものではないだろうか。

 横浜F・マリノス、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、横浜FCの4チームがホームタウンを置く神奈川県下には、プロ野球の横浜ベイスターズもある。大都市圏内のチームは、スポーツ以外の娯楽施設とも余暇を楽しむ人たちを奪い合わなければいけない。

 固定層を手離さずに新規の顧客を開拓していくのは、経営の安定感をはかるためにも欠かせない。となると、気になるのはチケットの値段だろう。

 プロ野球とJリーグのチームのホームページをのぞいてみると、新シーズンのチケットが発売されている。ここでは初めて観戦する人の目線に立ち、一番安いチケットを前売り券で購入するつもりで調べてみた。

 プロ野球の巨人戦を東京ドームで観戦する場合、1000円の立ち見席があった。子どもは半額の500円だ。合わせて1500円は割安だ。

 楽天の「外野自由エリア」も安く、こちらは大人が1000円、子どもは400円となっている。子どもは4歳から中学生までだ。小学生や中学生でも、気軽に観戦できる金額だろう。

 Jリーグはどうかと言うと、浦和レッズでは「A席大人」の2000円が最安値だった。小中学生は同じカテゴリーで半額の1000円である。これを「3試合セットチケット」で買うと、大人は5400円、小中学生は2700円になる。1試合あたり1800円、900円の計算だ。

 ガンバ大阪も、「Aホーム席」の大人2000円がもっとも安く、同じカテゴリーで小中学生は500円となっている。ガンバは「平日開催限定 後半割引当日券」というチケットも販売していて、ハーフタイム以降の入場がお得になる。「Aホーム席」なら大人は1300円だ(子どもの500円は同じ)。ただし、このチケットはリーグ戦では販売されない。

 今季からJ1に復帰するヴァンフォーレ甲府は、「ホーム自由席」の大人が2000円で、小中高生は700円だ。高校生までが700円で、しかも当日券も同じ金額なのは、ささやかながら有り難いサービスと言える。

 同じく昇格組のアビスパ福岡は、「ホームB自由席」が大人1500円、小中高が500円となっている。当日券でも大人は2000円、小中高は750円だ。

 同じ屋外のスポーツという意味で野球と比較してみたが、Jリーグが取り立てて割高な印象は受けない。ここで紹介したようなチケットを購入すれば、映画鑑賞とほぼ変わらない。小中学生なら映画よりも安いだろう。どのチームもチケットの種類を増やして、購入する側に様々な選択肢を与えている。

 となると、スタジアムへ来てもらうまでが最初のハードルで、初めてのお客さんをいかにリピーターへ変えていくのかが、二つ目のハードルになる。スタジアムグルメなどの周辺環境は大切だろうが、ソフトとしてのサッカーの魅力は不可欠だ。そこでは、クラブとしての哲学が重要になってくると思う。どういうサッカーを目ざして、観戦する人たちに何を訴えていくのか、が。

 日常生活では味わえない興奮や感動を提供したい、とするクラブは多い。そうしたものを恒常的に生み出すためには、そのチームならではのサッカーを作り上げなければならない。「あのチームの試合にいけば、面白いサッカーが見られる」といった期待感が、観衆を増やしていくのだ。時間はかかるとしても、それこそがサッカー文化を根づかせる近道となるはずだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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