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【コラム】戸塚啓

タレント頼みの中東

[ 2011年1月21日 06:00 ]

アジア杯の1次リーグD組で北朝鮮を下し、喜ぶイラクの選手たち
Photo By AP

 ドーハという街は、いつだってあの“悲劇”を思い起こさせる。あれから何度も中東を訪れているが、この街の肌触りは特別だ。懐かさがこみ上げてくる。

 自分にとって初めての中東訪問で、しかもそれが初めてのワールドカップ出場を争う大会だったからなのだろう。もっとも僕は、最終予選の途中で帰国してしまったので、一番肝心なイラク戦を見逃しているのだが……。

 それはともかく、同じドーハのピッチに描かれる風景は、93年10月当時からずいぶんと変わった。僕自身がとくに感じるのは、中東のチームのキャラクターである。攻撃的センスに秀でたDFや、守備的なMFを見つけるのが難しいのだ。

 W杯アメリカ大会出場を争ったイラクには、シュナイシュルというセンターバックがいた。インテリジェンスに溢れた彼は、流麗なパスワークを最後尾から担っていた。イランの右サイドにはザリンチェがいて、その攻撃性能はのちにマハダビキアへ引き継がれた。屈強でありながらパスセンスに長けたセンターバックや、強烈なサイドアタッカーと言うべきDFを探すのは、比較的たやすいことだったように思う。

 90年代のサウジアラビアを支えたアミンは、94年のワールドカップで2ゴールをマークした。中盤の深い位置から目の覚めるような長距離砲を放ち、96年のアジアカップをきっかけにビーレフェルトへ移籍したバゲリ(イラン)などは、アジアのスケールを超えていただろう。ストライカーだけでなくDFやボランチにも、ヨーロッパ大陸の香りを漂わせるプレーヤーがいた。

 ドーハで行われているアジアカップに出場している国は、日本を含めたほとんどが4-2-3-1のシステムを採用している。現代のトレンドをキャッチアップしているわけだが、最終ラインからきっちりとビルドアップしてくるチームは少ない。そうしたサッカーを志向しているのは日本、オーストラリア、ウズベキスタン、韓国といった国ぐらいだ。

 中東勢のチーム戦術は、かなりシンプルである。南米やアフリカ出身の選手を帰化させても、ヨーロッパから監督を招いても、突き詰めれば前線のタレントを頼りとするサッカーとなっている。一発を秘めていても変化に乏しく、戦いぶりは安定感を持たない。勢いをつかむと大きな力を発揮するのはカタールが証明するが、モチベーションを失うと日本戦のサウジのようになってしまう。落差が激しいのだ。東アジアの3か国とオーストラリアが南アフリカW杯の予選を勝ちぬいたのも、改めて納得できるところがある。

 現地時間19日に出そろったベスト8は、日本、韓国、ウズベキスタン、オーストラリア、カタール、イラン、ヨルダン、イラクとなった。対戦カードはいずれも中東対その他の地域だ。グループリーグの戦いぶりをみる限り、中東勢がすべて姿を消す可能性もある。

 ウズベキスタンとオーストラリアは、93年当時はAFC(アジアサッカー連盟)所属ではなかった。彼らが仲間入りを果たしたことで、アジアの勢力図は塗り替えられた。日本が右肩上がりに実力を伸ばし、北朝鮮がここにきて若年層の育成をフル代表に結びつけていることも、力関係の変化を促しているだろう。ただ、かつて中東勢のスケールの大きさや勝負強さに触れた者としては、そこはかとない寂しさのようなものを感じてしまうのだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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