そこかしこに残る大津波の爪痕 復興への“祈りの道”は賢治が愛した詩の世界でもあった

[ 2023年7月25日 08:00 ]

ネダリ浜の歩道
Photo By スポニチ

 【笠原然朗の舌先三寸】60歳の定年を前にして取得した長い休暇。夏の東北三陸を巡る。

 JR八戸線久慈駅から三陸リアス線に乗って岩手県普代村の普代駅へと向かう。車内は観光客でほどよく席は埋まっている。ディーゼル音を響かせてゴトゴトと1両編成のローカル線は走る。現在、NHKBSなどで再放送している朝の連続テレビ小説「あまちゃん」でもさまざまな場面で登場する。

 ロケ地となった駅に近づくとワンマン運転の運転士さんからその都度、説明が入った。

 高さ30メートルの大沢橋梁では列車を停めて撮影タイムを作ってくれるもてなしもある。東日本大震災から9年。復旧工事を経て2020年に全線開通した第3セクターのローカル線だ。こうした小さなサービスの積み重ねが口コミとなって観光客を呼ぶのだろう。

 普代駅から「みちのく潮風トレイル」のルートを歩く。同トレイルは、福島県相馬市と青森県八戸市の約1000キロを結ぶ道。三陸リアス線の全線開通に先立って、19年に全線が開通した。

 普代駅から国民宿舎くろさき荘まで約8キロの道のりだ。そのうち5キロは車道歩き。途中、普代水門の偉容を望む。高さ15・5メートル、総延長205メートルで、東日本大震災に伴う津波から村を救った“奇跡の水門”として話題になった。大田名部防潮堤の看板には「ここまで」という白線と、「津波到達高11・6メートル」と書かれていた。その高さを目の当たりにして改めて津波の猛威を知る。「みちのくトレイル」は震災遺構を結び、復興を祈念する“祈りの道”でもあるのだ。

 黒崎漁港からネダリ浜自然歩道に入る。

 断崖を削って作られた道だ。この旅の前に想像していたのは、トレイル歩きをする人とひんぱんに行き交う場面。だが部分的に歩いただけだが、そんな人は1人もいない。これもコロナ禍の影響か?

 トンネルを抜けると弁天港に着いた。小船数隻を係留すればいっぱいの小さな港。津波に襲われたせいか荒廃が激しい。港にあったのは事務所のような建物。「みちのくトレイル休憩所」と書かれていたので入った。ひんやりとした空気の薄暗い部屋には、誰が作ったのかゴミを集めて作ったオブジェが置かれている。小学校で使われているような椅子はどれも汚れていた。漂う廃墟感は嫌いではない。

 しばし休憩。その先には難行苦行が待っていた。くろさき荘まで標高差150メートル。750段の急な階段の登りだ。息を切らし、休み休み登っていくと眼下に弁天港に望む。

 “頂上”である黒崎展望台には宮沢賢治の詩碑が建っていた。

 「発動機船一」の一節「雑木の崖のふもとから わづかな砂のなぎさをふんで 石灰岩の岩礁へ」がネダリ浜を指しているのでは、という仮定のもとに建てられたのだという。

 賢治は生涯で何度から三陸海岸を訪れている。私は四苦八苦しながら詩の世界を歩いたことになる。

続きを表示

この記事のフォト

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年7月25日のニュース