佐藤天彦九段の現在地「好きなブランドを着て指すのもいいかなと思って」

[ 2021年7月14日 12:35 ]

第71期ALSOK杯王将戦2次予選準決勝で勝利した佐藤天彦九段
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 将棋の佐藤天彦九段(33)が13日、第71期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)の2次予選準決勝で池永天志五段(28)に勝利し、2組決勝進出を決めた。昨年、王将戦挑戦者決定リーグを1勝5敗で陥落。2次予選からリーグ復帰を狙う佐藤の現在地とは――。

 黒いシャツからのぞく白い腕。モノクロのコーディネートとは対照的に輝く赤髪。2次予選準決勝に臨む佐藤は、個性的なファッションで身を包み盤をにらんでいた。対するは関西の気鋭・池永。対局数、勝数ランキングで上位に名を連ね、2次予選1回戦では順位戦A級の菅井竜也八段を破るなど、今期好調を維持している。

 初手合いとなった今局。「居飛車党正統派」と評する池永を相手に、佐藤は「途中から変化する戦型なので、それが面白いかなと思っています」という変則的な中飛車を採用した。

 「序盤はこちらの趣向という感じだったんですけど、上手く対応されて作戦負けになってしまったかなという感じですね。序盤のあたりでこちらに何かなかったか、というところです。中盤、戦いが始まるあたりでもやはり向こうが指せる感じになっていて、はっきり(自分が)悪くなる瞬間もあったと思います。徐々にこちらが金銀を王様の回りに打ち付けて手厚くなっていったのかなという感じです」

 自由で深い探求心。個性的なファッションとリンクするように、盤上での新世界を模索する。
 
 「シャツはアン・ドゥムルメステールという、私が好きなブランドのものです。このブランドのシャツを着て対局したのは初めてかもしれません。好きなブランドを着て指すのもいいかなと思ってコーディネートしました。対局の日のコーディネートは前日に決めます。朝は慌ただしいので(笑い)」

 さらに目を引くのは鮮やかな赤髪だ。

 「今までカラーリングをしたことがほとんどなかったんです。本格的に染めたのは2回目です。前回はもっと暗かったので、もうちょっと明るくしてみたらどうなるかなと思って。脱色せずに黒髪の上に乗せられる一番明るい色にしてみました。そういう楽しみを知らなかったので、やってみたいなと思って(笑い)。普段、髪を切りに行くスパンが2か月位と長いので、髪の上の方は黒くなっちゃうかもしれないんですけど、そういうのも面白いかなと…」

 短い取材の中でも佐藤が何度も口にした「面白さ」という言葉。長く続く孤独な勝負の道では、貪欲に白星を渇望するだけでは息が切れてしまう。「面白さ」は厳しい道を持続可能的に進むためのエッセンスなのだろう。

 次戦の2次予選2組決勝では、挑戦者決定リーグ復帰をかけて三浦弘行九段―近藤誠也七段の勝者と戦う。昨期のリーグは1勝5敗と、陥落の苦杯をなめた。

 「王将リーグは毎年錚々たるメンバーがそろうリーグですから、なかなかそのリーグに入って結果を出すというのは大変なんですよね。これまでの王将リーグでも、トップクラスの相手と指すことによって得られるものはかなりたくさんありました」

 佐藤が本局で採用した振り飛車もそのひとつ。生粋の居飛車党だった佐藤が、昨期の王将リーグ藤井聡太2冠戦で先手中飛車を披露ことは大きな話題となった。 

 「もちろん(リーグに)入れて活躍できれば一番なんですけど、入って指すだけでも非常に勉強になるリーグだと思っています。次戦はベテランの三浦先生、若手強豪の近藤さん、どちらが来ても強敵なので頑張りたいですね」

 2次予選2組優勝者だけが進む王将リーグ。復帰か、敗退か。夏の終わりに佐藤が手にするカードに注目が集まる。


 佐藤 天彦(さとう・あまひこ) 1988年(昭和63)1月16日、 福岡県福岡市出身の33歳。中田功八段門下。2006年10月、四段。獲得タイトルは名人3期。

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