ジョン・レノン没後40年 最新ベスト盤でしのぶ唯一無二のボーカル

[ 2020年11月11日 12:30 ]

最新ベストアルバム「ギミ・サム・トゥルース.」のジャケット
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 【牧 元一の孤人焦点】ジョン・レノンの命日が近づいて来た。12月8日。今から40年前、クリスマスの気配を感じ始めた東京の街で悲報を耳にしたことを思い出す。

 当時は気づいていなかったことがいくつかある。ジョンのボーカリストとしての傑出ぶりがそのひとつだ。子供の頃からザ・ビートルズを聞き続けていたが、ジョンやポール・マッカートニーの個々の才能うんぬんより、楽曲の魅力ばかりに心を奪われていた。

 生誕80周年記念で発売された、ジョンの最新ベストアルバム「ギミ・サム・トゥルース.」。1970年の「ジョンの魂」から死後の84年の「ミルク・アンド・ハニー」まで全てのソロアルバムから選曲されている。オリジナル・マルチトラックを使用したリミックスで、音質が優れており、研究にうってつけだ。

 ビートルズの「カム・トゥゲザー」をニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで歌ったライブ音源が興味深い。このパフォーマンスは過去にライブ映像などで出回っているが、じっくりと聞き直してみると、ジョンの歌の先鋭性が良く分かる。

 音域が広いわけではない。圧倒的な歌唱力があるわけでもない。かねて、このライブに関しては声の調子が良くなかったという評価もある。ところが、その歌声をあらためて耳にすると、胸に突き刺さる鋭さがある。強烈な自己主張を感じる。それでいて、渋さもある。「カム・トゥゲザー」を、ほかの誰がこれより魅力的に歌えるだろうか。

 「ゴッド(神)」でも、能力の高さが分かる。この曲は途中から単純なメロディーの繰り返しになる。♪エルヴィスも信じない ディランも信じない ビートルズだって信じない…と、さまざまな名前を入れて歌い続ける。あまりに簡潔で、並みの歌手が歌えば陳腐に聞こえてしまうところを、メロディーが変化するエンディングまで力強く引っ張ってゆく。

 「イマジン」にしても、「ラヴ(愛)」にしても、「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」にしても、「スターティング・オーヴァー」にしても、ジョンの歌声だからこそ人の心を震わせられるのだと思う。ビートルズの屋台骨を支えてきた人だからこそ、あんなふうに歌うことができるのだと思う。ロック史上最高のボーカリストと言うつもりはないが、史上に残る、唯一無二のボーカリストであることは間違いない。

 ジョンに話を聞く機会は永遠に失われてしまった。でも、夫人のオノ・ヨーコには質問して答えを得たことがある。今から13年前、ヨーコが東京・日本武道館での「ジョン・レノン スーパー・ライヴ」をPRするために記者会見した時だ。

 もし、今の時代にジョンが生きていたら何をしていたと思う?その問いに、ヨーコはこう答えた。

 「今はインターネットが発達した時代。ジョンは家にこもるのも好きな人だから、ずっと家にいてネットをやっているかもしれない」

 もし、今もジョンが存命だったらコロナ禍でやはり自宅でネットに興じているかもしれない。でも、コロナが収束した折りには、80歳を超えた祝いとして意外と気軽にポールと一緒に歌う機会をつくるような気もする。長生きしてほしかったとつくづく思う。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。 

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