春なのに

[ 2020年4月16日 08:00 ]

 【我満晴朗 こう見えても新人類】新型コロナウイルスの影響で再評価されるのは「自転車通勤」ではないか。ロードバイク専門誌の指摘に思わずうなずいた。いくらテレワークが増えたところで、自宅と職場間を電車で往復せざるを得ない人は圧倒的に多い。彼らは物理的に「三密」状態を強いられる。ならば「ジテツウ」にシフトしちゃえ、という提案だ。気候もよくなったし。

 その「ジテツウ」の発案者、疋田智さんを取材したのは5年前だ。電車で50分かけて通勤していた行程(約12キロ)を自転車に代えたら最短35分で到着する事実に驚愕(きょうがく)。ラッシュを避けられるだけでなく体にもいい。以降「自転車ツーキニスト」を名乗り、各方面でPR活動を続けている。

 疋田さんによると「自宅から職場まで15キロ圏内」が自転車通勤の最適距離だとか。理由は「どんなに混雑しても1時間以内に着き、加えて適度に運動した感覚がありながら疲れを感じない絶妙な距離だから」。ちなみに東京都の新宿周辺が仕事場だとすると、東は新小岩や船堀、西は武蔵境に調布、北は戸田、南は蒲田までが15キロ圏内に該当する。意外に広範囲ではないだろうか。
 …という特集記事を執筆した筆者なのに、実はジテツウ経験はない。自宅から職場までの直線距離を測ったら16キロ。むむ、微妙だ。二の足を踏んでいるのはこの距離ではなく、途中の道路事情。どの道も交通量が多く、ロードバイクで路肩を走行するのは冷や汗ものなので。このへんはあくまで個人の感覚だから、慣れている皆さんならスイスイ進むのだろうけど。

 「理想は英国のロンドンなんですけどね」と疋田さん。かつては過度の交通渋滞に悩まされた中心部に自動車の進入制限をかけ、交通量を大幅に削減。対照的に自転車専用レーンを増やしたところ、一気に「ジテツウ」利用者が激増した。かつてクルマがわがもの顔で占めていた道路を、今は多数の銀輪が快適に疾走しているという。日本でも大都市圏(特に東京圏)で実現すれば、それこそ電車に乗る代わりにペダルを回しながら職場に向かうのだが、と…。

 振り返ってみれば彼の地で自転車優先政策の旗振りを務めたのは、市長時代のボリス・ジョンソン氏。そう、現首相の、あの人だ。いかにも偉い人が乗りそうな高級車ではなく、ミニベロにまたがって公の場に現れるのが売り。もちろんヘルメットを着用して(だからあんな髪形なのか?)。

 ロンドンの自転車ツーキニストにとって恩人とも言うべき同氏だが、よりによって新型コロナウイルス感染が報じられた。このコラムを執筆している4月中旬時点では快方に向かっているとのことで、ひとまず安心はしている。

 一方で自らのジテツウ実行には踏ん切りがつかない。コロナも怖いが、事故った場合は医療機関に余計な負担をかけてしまう。仕方ない。きょうも電車で仕事に向かいますか。(専門委員)

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2020年4月16日のニュース