【内田雅也の追球】「習慣」の中継とチャージ 1つの打球、送球を大切にする「心」の問題

[ 2023年3月5日 08:00 ]

オープン戦   阪神2ー4オリックス ( 2023年3月4日    甲子園 )

<神・オ>初回、杉沢の左前打を処理するミエセス(撮影・岸 良祐)
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 勝敗は無関係と承知のうえで書くと、決勝点を失ったのは間一髪の中継プレーだった。

 2―2同点の6回表1死一塁で左越えの長打を浴びた。左翼手・井上広大はクッション処理もよく、遊撃手・木浪聖也への送球も素早い。木浪中継時、一塁走者は三塁を蹴り、本塁突入した。

 「アウトと思ったけどなあ」と試合後、監督・岡田彰布が漏らした。それほど、よどみのない中継プレーだった。「タイミングはアウトよ。ちょっとそれたな」。木浪の本塁送球は三塁寄りにそれ、捕手・坂本誠志郎は捕球できなかった。後逸で打者走者の三進は遊撃手に失策がついた。

 コリジョン(衝突防止)ルールから捕手は三本間の走路に立つのを避ける習性が染みついている。送球を捕球する際はこの限りではないのだが……この点はさておく。

 この7―6―2をはじめ、今年初の甲子園での試合で内外野の中継プレーは3度あった。2回表は右中間長打に9―4―5(板山祐太郎―植田海―佐藤輝明)で間一髪セーフ。8回表は右越え打球で今度は9―4―5(森下翔太―渡辺諒―熊谷敬宥)でアウトにした。

 岡田は「アウトセーフ関係なしにやることはできてるなあていう感じよ」と満足そうに言った。「やろうとしていることは」という意味だ。

 昨秋、今春のキャンプで外野手の送球はすべて中継の内野手に返すよう徹底してきた。シートノックでも全球カットを続けている。外野手も内野手も低く強い送球をするよう繰り返し練習してきた。その成果が見える。

 「素晴らしい人生を保証してくれるのは才能ではなく習慣だ」と喜多川泰の小説『書斎の鍵』(現代書林)で父が息子に諭す。「我々が人生で手にするものは、才能ではなく習慣が決めている」

 阪神には、いい習慣が根付こうとしている。

 外野手が素早くチャージして打球に到達、返球する習慣も喜ばしい。この日は初回先頭の左翼線安打に新外国人で巨漢のヨハン・ミエセスが素早い動きで返球し、打者走者の二塁進塁を阻んだ。

 沖縄でのオープン戦でも岡田は「二塁打性を3本ほど単打で止めていた」と評価していた。

 「習慣によってつくり出すべきものは思考だ。心といっていい」と先の書にある。1つの打球、送球を大切にする「心」の問題なのだろう。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月5日のニュース