【内田雅也の追球】「跳ね返り」の希望 失敗を見事にやり返した勝利

[ 2022年7月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5-2中日 ( 2022年7月2日    バンテリンD )

<中・神>中日に勝利し、湯浅(右)の頭を優しく叩く矢野監督(撮影・椎名 航)
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 岩崎優にはあらためて敬意を表したい。2日前(6月30日)のDeNA戦(横浜)で1点リードの9回裏に2失点し、逆転サヨナラ負けを喫した。あの日、当欄で<功労に敬意を払って書くが、今の彼にクローザーは酷ではないか>と、カイル・ケラーのクローザー起用を提案していた。

 この日、3点リードの9回裏、監督・矢野燿大が送り出したのは岩崎だった。2死から安打されたが無失点で15セーブ目をあげた。登板9試合連続(8回2/3)で計14安打を浴びており、決して本調子ではないが、不屈の姿勢はさすがである。

 阪神で光っていたのはこの「バウンスバック」である。本来は「跳ね返る」、翻って「立ち直る」「やり返す」といった意味になる。

 試合序盤はミスが相次いだ。1回裏1死一塁で遊ゴロ失、2回裏1死二塁で一ゴロ失と、走者を背負った場面で失策が出た。このピンチを伊藤将司が無失点でしのいだ。

 失策が出たイニングを「4アウト・イニング」と呼び、失点につながることが多い。伊藤将の踏ん張りに野手陣は奮起したことだろう。

 この投球が3回表の4点を呼んだ。2死三塁から死球をはさんで3安打とつながった。満塁で三塁打を放った大山悠輔は2回裏の失策を取り返したわけだ。

 試合終盤に見たのは前日(1日)の失敗をやり返す姿勢だった。前日の5回表2死一、二塁、根尾昂に三ゴロに凡退していた近本光司は8回表先頭、根尾の初球を右中間安打した。前日空振りしていたスライダーを一振りで仕留めた。

 8回裏には湯浅京己がやり返した。前日、決勝2ランを浴びたアリエル・マルティネスに対し、被弾したのと同じ速球で勝負を挑み、空振り三振に切ったのだ。

 毎日試合のあるプロ野球だ。失敗を引きずっていては生き残れない。<日々、勝者と敗者は生まれる>と伊集院静が『逆風に立つ』(角川書店)で書いている。<ひとつの勝利がもたらすものは選手にとってもファンにとっても真の価値であり、希望なのである>。

 バウンスバックはゴルフ用語でもある。ボギー以下のホールの直後、バーディー以上をマークすることをいう。まさに、この日の勝利と希望である。=敬称略=(編集委員)

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2022年7月3日のニュース