セ・リーグDH導入賛成?反対?デスクが賛否語る「世界の流れに逆らえない」「采配考える醍醐味減る」

[ 2022年4月5日 06:00 ]

3月26日の巨人―中日で、投手の中日・勝野が本塁打を放つ
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 各分野の話題の賛否を問う企画「マイ・オピニオン」。今回は近年、プロ野球で導入の議論が起きている「セ・リーグのDH制」について。大リーグでは今季両リーグでの導入が決定。これまでVTR判定「リクエスト」制度など、MLBの制度改革を翌年導入することが多かった日本プロ野球でも、再び議論が高まる可能性は高い。スポニチ野球担当の後藤茂樹、春川英樹両デスクが導入への賛否の理由を挙げた。

 【賛成・後藤デスク】DH制には良さも、欠点もある。だからこそア・リーグで73年に導入されてから、日米の両リーグで異なるルールが50年近く継続されてきた。そのメリットとデメリットをまずは挙げてみたい。

 最大のメリットは、投手の故障のリスクを下げることだと思う。死球や、打撃で手首を痛めるリスク。そして技術が必要なベースランニング。台湾出身の王建民(ワンチェンミン)はヤンキース時代の06、07年と2年連続19勝。アジア出身初の最多勝に輝いた。当時27歳で、これからという08年、交流戦で打席に立ち、走塁でベースを踏む際に右足を痛めた。腱の部分断裂という重傷。以降16年までメジャーで投げたが、負傷後は計14勝にとどまった。たった一度の故障で、より輝いたであろうキャリアを棒に振ったのだ。

 バットを振る必要がなければ、打撃練習も走塁練習も必要なくなる。投球に専念でき、コンディショニングにも役立つだろう。DHは投手だけでなく、野手にも手助けとなる。近年の大リーグではDH専任の選手は減っており、ベテランや内外野のコーナープレーヤー(右、左翼、一、三塁)が交互にDHを務め、半ば休養代わりとして負担を減らしているケースが多い。

 DHのおかげでプレーできる野手もいる。09年のワールドシリーズMVPに輝いた松井秀喜は、ポストシーズン含め計157試合に出場したが、外野手としての出場は0。左膝を痛めていて、全てDHか代打での出場だった。DHがなければ、日本中が沸いたあの歓喜の瞬間はなかった。

 打撃が本職ではない投手が、大方の予想を裏切って打つから面白い。その声はエンターテインメントの観点から賛同できる。ただし一方で、その数十倍、いやそれ以上の数の、打席で打つ気のない投手が凡退する姿を見続けなければならない。

 DHが導入されれば常時出場する野手レギュラーが一人増える計算になり、チームの総年俸を上げる要素となる。ナ・リーグが導入に否定的だったのはこの部分も大きかった。ただし選手会との労使交渉で、DHを希望する選手会へ譲歩する材料の一つとしてユニバーサルDHに合意した。これで韓国、台湾、キューバなど世界の主要リーグは総じてDH制に。国際大会は公開競技だった84年のロサンゼルス五輪から、ほぼDH制で行われてきた。この流れは今後も変わることはない。

 野球は9人でやるもの。代打など采配の妙が減る。こうした古典的かつ、試合の面白みを求める声に大きく異を唱えるつもりはない。だが、メリットとデメリットを大局で見れば、メリットの方がはるかに大きいと言わざるを得ない。世界の潮流に逆らい、野球でさえもガラパゴス化させる必要はない。

 【反対・春川デスク】DH制のメリットの多さは否定できない。特に「投球専念」「打席での故障予防」など、投手のコンディション面ではいいことずくめだ。20年12月、選手会が行った12球団の選手会長らへのアンケートで9割以上が導入賛成だったのも承知している。それでも「セ・リーグもDH導入」をすんなりとは受け入れられない。

 公認野球規則の最初の項目「1・00 試合の目的」にはっきりある。「1・01 野球は、囲いのある競技場で、監督が指揮する9人のプレーヤーから成る二つのチームの間で、1人ないし数人の審判員の権限のもとに、本規則に従って行われる競技である」。9人のプレーヤー=ナインが野球の基本形だ。もちろんDHに関しても「5・11 リーグは、指名打者ルールを使用することができる」の条項はある。ただし、これは大リーグのア・リーグで73年からDH制が導入された際などに、後から加えられたものである。

 投手の打席には野球の難しさが凝縮されている。安打を打つことの難しさ。打者が投手だとしても打ち取ることの難しさ。さらに投手交代のタイミングという、野球というゲームの流れを読む難しさも含んでいる。楽天監督時代に取材した野村克也さんも「ワシはDH制っちゅうのは好かんのや。投手交代を考えんでいいから。その分、監督はやりやすいが、な。だから、ええ監督も育たんのや。パの野球は打って投げるだけ、淡泊や」と言っていた。現役時代はパ一筋で、監督としても両リーグを経験した名将が「やりやすい」というDH制。「やりにくさ」は面白さと同義だと感じる。

 セ・リーグは試合終盤の投手の打席で続投、交代など必ず選択を迫られる。その決断が試合の流れに大きく影響する。チーム、監督による戦略や作戦、選手育成のビジョンさえ見えてくる瞬間。それがなくなれば、ファンにとってもベンチワークへの予想、決断の結果を楽しむ醍醐味(だいごみ)は間違いなく減少する。また、DH推奨派には、打撃力の劣る投手の打席を「ムダなもの」とする意見も多い。だが、非効率なものを排除することが全てだろうか?ルールの中で可能な限りの手を尽くし、勝機を探るのもスポーツの魅力の一つ。打撃が不得手な投手が、打席でどうやって攻撃に参加しようとするのか。それも野球の一部と考えたい。

 MLBの両リーグDH制、国際大会もしかり。DH制移行への流れは止められないだろう。それでも、本来の野球の魅力の一部を失いたくない。「二刀流」も投手が打席に立ってこそ、ではなかろうか。

 《MLBでア・リーグが73年から》MLBではア・リーグが1973年に採用。ナ・リーグより後発の同リーグがリーグを活性化させるためこの画期的な新制度を導入し、50年目となった今季ナ・リーグでも採用することが決まった。日本では2年後の75年にパ・リーグが導入。セ・リーグは長く否定的な立場を取っていたが12年2月、水面下でレンタル移籍などとともに導入を検討していることが判明した。また19年10月の日本シリーズ後、巨人・原監督がオーナー報告で「(セも)DH制は使うべき」と提言。20年12月14日には、巨人がセ・リーグ理事会で来季、暫定的なDH制導入を提案。山口寿一オーナー名で提案書を提出した。コロナ下での投手の負担軽減、野手の出場機会増などを理由に掲げたが、賛同を得られずに見送られた。

 《賛成側53.9%も賛否はほぼ二分に》ツイッターアカウント「スポニチ野球記者」でセのDH導入の賛否を聞いたところ、「賛成」が最も多く38.0%。「どちらかといえば賛成」の15.9%と合わせて53.9%だったが、賛否はほぼ二分される結果だった。賛成派は「打てない投手を打席に立たせること自体にうんざり」「DHがあることによって育つ選手、現役を長く続けられる選手もいる。投手も不要なケガをしなくてすむ」「WBCなどの世界標準ルールに柔軟に対応する方がいい」など。反対派は「野球は9人でやるものという伝統をセ・リーグだけでも残してほしい」「投手が安打、時にはHRを打つサプライズも楽しみの一つ」「セ、パの野球が違うのが面白いと思っているので」など。「土曜日だけDHデーにする」「交流戦が終わるまでDH制。以降は現行の折衷案」などの意見もあった。

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