【番記者秘話】打席では足が震え、割り箸をバットに…苦しんだからこそ美しかった中谷の放物線

[ 2021年7月2日 12:30 ]

阪神・中谷
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 ずっと“20発の残像”と戦っていた気がする。右の大砲として期待され、17年にチームトップの20本塁打を放ち飛躍を遂げた1年は「自信」ではなく「重圧」に姿を変えて中谷を苦しめた。

 「これが周りの基準になるんですよね…。来年、20本打てるイメージが湧かないんです。正直、怖いです」。 そのシーズンオフに漏らした本人の言葉だ。翌18年のオープン戦では打席で足が震えている自分に気づいたという。弱かった…と言えばそれまでだが、ここ数年「このままで終わりたくない」と苦悩し、もがく姿を間近で目にしてきたからこそこのトレード、地元・福岡でのプレー機会が、再起のきっかけになればと強く願う。

 普段、取材での口数は少ないが、よく2人で通った鉄板焼き店では本音を吐き出した。「クビになったら僕どんな仕事したら良いんですかね。最近よく考えるんですよね」。「あ~マジで打てて良かった」。喜びも落胆も、割り箸をバットに見立ててフォームチェックする姿も見てきた。高卒1年目から取材した11年間は苦闘ばかりでも、それを一振りで忘れさせる美しい放物線を目にするたびに、ペンに力は入った。

 「阪神・中谷将大」の1面を最後に書いたのは、昨年12月の結婚記事。家族のためにもやっぱり、このままで終われない。トレードの正式発表後に行われた阪神での最後の取材。対面ではなくオンラインなのが何とも寂しかったが、いろんなものを堪えながら僕は質問をぶつけた。“まだ終わっていないぞ”のエールも多分に込めて。(阪神担当・遠藤 礼)

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2021年7月2日のニュース