世界一導いたレッドソックスのコーラ監督に生きている好奇心、探究心とは

[ 2018年10月31日 10:00 ]

優勝トロフィーを掲げるレッドソックスのコーラ監督=左(AP)
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 レッドソックスを世界一へと導いたのはアレックス・コーラ監督だった。私が大リーグ担当としてレッドソックスを取材した07年。二遊間の控え選手だったコーラ氏について思い出すのが、松坂大輔投手が持ち込んだ5本指ソックスを好んで愛用したこと。「日本にはこんなものがあるのか。足の指が動きやすくなるし、土をかむ感触が分かる。これを発明した日本人はすごいな」と興奮気味に話していた。

 多国籍軍がそろった当時のレッドソックスの中でも、新しいものには必ず興味を持った。日本から差し入れのせんべいを持参した際に「これは何だ?」と聞いてきた。口にして「これは今のオレには食べられない。でも、必ず何カ月かで克服するよ」と宣言し、その通りに秋口には、同じせんべいをペロリと食べた。新しいことへの興味と異文化をも吸収しようとするプエルトリコ出身の選手の姿が印象的だった。

 そんな好奇心であり、探究心は、監督として生きているのかもしれない。当時の正二塁手は新人のペドロイア。自らのライバルであるはずだが、ポストシーズンで不振になった際には「不振もすべて楽しむこと。ポストシーズンで不振になれるのも、あなたが大リーガーで、しかも才能があって起用してもらえるからだ。そんな経験をできるのは今、世界で数人しかいないんだ。泣き言を言うならオレが代わって出てやる」と真顔で言って支えた。

 常に選手の置かれた状況を理解し、適切な言葉を送る。第2戦で先発したプライスを中1日で第3戦にリリーフで送って、また中1日で先発起用した。選手との信頼関係がなければ、あつれきが生まれても仕方ないが、まったくそんなものはなかった。最後まで自らの偉業よりも「最後は選手。彼らが試合を決めたんだ」と選手を称えた姿が印象的だった。

 野球は数値が支配するようになった。否定することはできないし、目に見えないものを数値化することで、正当化できることはたくさんある。ただ、あくまで判断材料の一つでしかない。選手は今、どういった精神状態にあるのか。その機微を感じて起用する。だから柔軟性や意外性が生まれるのだと、コーラ監督を見て改めて思った。(記者コラム・倉橋 憲史)

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2018年10月31日のニュース