米国のスポーツを書くために必要なこと(2)=単位と時間編

[ 2023年8月28日 08:50 ]

大リーグの球場のフェンスに記されているフィートでの距離(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1995年8月7日、スウェーデン・イェーテボリで行われた陸上の世界選手権で、ジョナサン・エドワーズ(英国)が18メートル29の世界記録を樹立。社内のテレビで中継を見ていた私は日本時間の午前零時直前に編集トップの指令ですぐにそれを裏1面に仕上げるべく、突貫工事で原稿を書いた。

 ただし後になって知ることになるのだが、米国での反応は日本以上だった。なにしろ18メートル29を“米国式単位”で換算するとちょうど60フィート(実際には18メートル28センチと7・64ミリ)。「初の60フィート到達」というキリのいい数字が米国では関心を集めた。

 このように米国で使われている長さ、重さ、速度の単位、さらに温度表示は日本とは異なっている。スポーツの原稿を書いていると、各選手の身長、体重、さらにバスケで言えば3点シュート、野球なら本塁打の距離は計算機のお世話にならないと(珠算上級者は別格?)日本では“商品”にはならない。

 長年こんな仕事をしているせいもあって、私は1フィート=0・304794メートル、1インチ=2・5399センチ、1ポンド=0・45359キロ、1ヤード=0・9144メートル、1マイル=1609メートルまでは換算するときの数値として覚えている。大谷選手の本塁打の距離はもちろんすべてフィートで表示されるので、計算機でその数字に0・304794をかけてメートルにしている。

 ただし身長は手間がかかる。なぜならフィートとインチの両方で示されるからだ。レイカーズの八村塁選手の身長は6フィート8インチ。だから(6×0・304794)+(8×2・5399)で203センチということになるが、1人ならまだしも、何人も選手の身長を記さなければならないときも多いので、これだけはいちいち計算してはいられない。

 というわけで5フィートちょうど(152センチ)からNBAの複数のビッグマンの身長でもある7フィート6インチ(228センチ)までは1インチ刻みですぐにセンチに換えられるようにすべて覚えている。6フィートちょうどが183センチで、7フィートは213センチ。6フィートを基準にすると、上に1インチずつ行くごとに2センチ→3センチ→2センチ→3センチと交互に増え、7フィートでは上に3センチ→2センチとその逆のパターンで増えていくことを頭の中に入れている。

 体重は各自まちまちなので覚えきれないが、220ポンドがだいたい100キロであることは認識している。最初にフィートやポンドの換算が業務上必要になってしまった人は、まず自分のサイズを米国式に変えておくとその数字を身近に感じるかもしれない(私は5フィート7インチ+1/4インチで143ポンド)。

 気温も日本では摂氏だが米国では華氏。換算式が複雑なので、これはネットの換算サイトにすべてお任せしているが、それでも華氏32度が摂氏0度、華氏86度が摂氏30度であることだけは覚えている。さらにアラスカとハワイ両州を除くと東部、中部、山岳部、西部で時差があってサマータイムも採用しているので、米本土では4×2の8通りの時間と、それに伴う日本との時差が存在するのもお忘れなく。取材対象がどこにいるかによって、試合開始の日本時間は大きく変わってくるし、もし米国内出張時がサマータイムの開始もしくは終了日であれば、その日に時計を1時間進めたり、遅らせたりする作業を怠ると、自分が乗るべき飛行機をぼう然と見送ったり(同業の記者に被害者1人存在)、空港に早々と到着しすぎて時間を持て余したりするので気をつけてほしい。

 面積もエーカー、ヘクタールなど日本とは違うが、平方キロ・メートル、あるいは平方メートルに換算したあとに比較対象としてよく用いているのは東京ドームの敷地面積(0・047平方キロ・メートル)と東京23区の面積(619平方キロ・メートル)の2つ。面積は長さほどピンとこないので、換算したあとの日本流?のフォローが必要になってくる。

 単位以外で私が最初にNBAの米国でやったときに戸惑ったことがある。

 それが試合における時間表示。日本では何かが起きた瞬間は開始からの経過時間を記すことが多いが、米国ではNFLを含めて残り時間で表記するのが主流となっている。これはボクシングでも同じ。画面を見ていると日本の放送では時間が3分ちょうどに向かって進んでいるが、米国などでは0に向かって少なくなっている。

 試合の時間経過はネットの中で「Play―by―Play」を見ていればわかるのだがこれもNBAでは1クオーター12分から0に向かって突き進んでいくパターン。90年代中盤、現地でNBAの取材をしていたときには試合後にメディア用のゲーム・スタッツ(個人&チーム成績)と「Play―by―Play」が紙の資料として配布されるのだが、ただでさえ時間を節約しなくてはいけないときにゆっくり見てはいられない。ましてやそこに記されているのはすべて残り時間なので、経過時間を書く当方の原稿用紙(まだそんな時代)には反映されない。なので私は試合を見ているときには必死だった。ノートにはプレーごとの両チームの得点経過を書いているが、そのたびに12分から場内表示の時間を引き算して書く作業を繰り返していた。

 アナログの時代はもう終わっているのでそんな面倒くさいことは必要はないのだが、それでも頭の中を“逆算型”にしておくことはある意味、この仕事の基本でもある。

 さて単位や時間表記をふまえた上で、もっと大事なことがある。それは英語への理解力。私は学生時代から英語を勉強していたわけではなく、「米国に1人で行け」と会社の指示を受けてから学習(苦闘?)を始めた人間なので、すべてがほぼゼロからのスタートだった。だからある程度、英語に熟達した人に比べると、感じたことや見えた世界が少し違う。その中から、これから第1歩を踏み出す人に私なりに印象的だった“スポーツ英語”を紹介してみたいと思う。(続く)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは5時間35分で完走。

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