IOCとの力関係に変化も “変革への一歩”進めたアスリート側からの積極的発信

[ 2020年4月20日 09:00 ]

新国立競技場
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 東京五輪の延期決定に至る過程で目に付いたのは、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを含めたアスリート側からの積極的な発信だった。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く状況で延期や中止に対して動きが鈍かった国際オリンピック委員会(IOC)や東京五輪組織委員会に対し、3月中旬から厳しい発言が相次いだ。14年ソチ五輪アイスホッケー女子でカナダの4連覇を支え、現在IOC委員を務めるへーリー・ウィッケンハイザー氏は東京五輪を予定通りに開催することは「無神経で無責任」と非難。陸上女子棒高跳びで2連覇を狙うエカテリニ・ステファニディ(ギリシャ)は「状況が著しく悪化しているのにIOCは同じ言葉を繰り返している。私たちの健康を脅かしたいのか」と憤った。陸上女子七種競技で19年世界選手権優勝のカタリーナ・ジョンソントンプソン(英国)はジムや公共施設で孤立する状況に「練習することにプレッシャーを感じる。日々のメニューをこなすのは不可能」と打ち明けた。通常開催への懸念や不安、怒りはSNSで拡散されると同時に通信社の記事に引用され、世界中のメディアで紹介された。

 一連の発言が延期の判断にどう作用したのか数値で計れるものではないが、結果的にIOCや組織委は大会の1年延期に追い込まれた。ドイツ・アスリート協会のハーバー最高責任者は「IOCと日本が延期を決めたことはアスリートが声を上げ、明快に語ったことと強い関係がある。公式にはアスリートに(IOCの意思決定への)影響力はないという状況に変わりはないが、SNSを通じて世論を形成できることは明確に証明された」と話す。

 ウィッケンハイザー氏は「無神経で無責任」と批判した約24時間後にIOCから「我々と話し合うことなく意見を述べたことは残念」というメッセージを受け、プレッシャーを掛けられたというが、意に介する様子はない。「アスリートは持てる力を行使して変革を生み出せるよう立場を生かし続ける必要がある」と訴える。17年に現役を退いたとはいえ、その前からIOC委員を務めてきた同氏の“アスリート目線”の発言は、IOCが圧倒的に優位だった対アスリートとの力関係が変わり始めていることをうかがわせる。近代五輪の歴史で初となった開催延期は、変革への一歩が踏み出されたターニングポイントとして記憶されることになるかもしれない。(東 信人)

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2020年4月20日のニュース