10月でプロ引退、町田樹さん会見全文「さようならは言いません」
フィギュアスケート男子で14年ソチ五輪5位、同年世界選手権で銀メダルを獲得し、10月6日のジャパン・オープンとカーニバル・オン・アイス(ともにさいたまスーパーアリーナ)を最後にプロから引退することを表明している町田樹さん(28)が13日、都内で取材に応じた。
6月15日、自身の公式サイトで学業に専念するために引退することをつづってから約1カ月。この日スタートするプリンスアイスワールド(DyDoアリーナ)の公演前、町田さんは報道陣の前に姿を見せ、今の思いを独特の語り口に乗せた。
―まず町田さんからひと言
「記者会見の前に、この度の西日本豪雨の災害でご家族や親しい友人を失われた方々につつしんでお悔やみを申し上げます。それから、災害で今も苦しんでおられる方々につつしんでお見舞いを申し上げたいと思います。私自身も小学生から大学に進学するまで、広島市東区や安芸郡府中町に住んでおりました。連日、こうした親しみのある地域の惨状を目の当たりにすると本当に胸が痛む思いです。被災地の地域のみなさまのもとに一刻も早く日常が戻りますことを心より祈念いたしております」
「ここから記者会見をさせていただきたいと思います。本日はお暑い中、お集まり下さりありがとうございました。私の方からあらためましてプロスケーター引退の報告と、プリンスアイスワールド東京公演の演者として、この公演にかける思いをお話させていただきたいと思います。私、町田樹は10月6日のジャパン・オープン、それからカーニバル・オン・アイス、さいたまスーパーアリーナで行われるんですけれども、そこでの演技をもってプロスケーターを引退することを決意いたしました。引退に伴う私の思い、引退に際しての私の思いにつきましては、このプリンスアイスワールド東京公演のパンフレット、表紙が赤くなって刷新されているんですけれども、そこの中でインタビューとして十全に語らせていただきましたので、基本的にそちらをご参照いただけたらと思います。ですが、本日みなさまお集まりいただきましたので、そこでは語っていない思いを語らせていただきたいと思います。私はフィギュアスケートの競技者として2014年末に長野の地で引退をしましたけれども、それからプロスケーターに転身をしまして、大学院生のかたわらでこうしたプロ活動をさせていただいておりました。1つ言えることは本当にプロスケーターとして日々、研鑽を積む、努力をする環境ってなかなかないというのが現実でして、私も毎年プリンスアイスワールドを主な作品発表の場としておりましたけれども、株式会社プリンスホテル、それからこの東伏見アイスアリーナ、それからこの西武沿線にもう1つ東大和アイスアリーナ、その2つのスケートリンクがプロスケーター、実演家、振付家として私にとっては生命線でした。この2つのリンクがなければ、この4年間プロ活動をしてこられませんでした。ひとえにプリンスホテルと2つのリンクのおかげだと思っています。この場で頃から感謝をお伝えしたいと思います。ありがとうございました。それからですね、実は、リンクがあるといえど、練習時間ってなかなかないんですよ。プリンスホテルさんのご厚意によって貸し切りを取らせていただいたりしたんですけど、それだけでは決して足りなかった。ここダイドードリンコアイスアリーナ専属の染矢慎二コーチを始め、ここに所属されているインストラクターの方々のご厚意で、若い選手たちのための貸し切りにプロスケーター私1人だけ、この4年間入れさせてもらっていたんです。そういった貴重でかけがえのない時間があったからこそ、プロスケーターとして技術、体力を維持できたと思っています。重ね重ねですが、この場をお借りして染谷慎二先生をはじめ、ここに専属されているインストラクターの方々、ここで日々頑張っておられる選手のみなさんに心から感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。私の方からはこのへんですかね。だからこそ、このリンクは私にとってホームリンクでしたので、この公演を無事に迎えられることを心から嬉しく思っていますし、1公演1公演かみしめながら今まで私を支えてくださった氷に感謝の気持ちを込めながら、この東京公演4日間8公演ありますけれども、全力を尽くしてまいりたいと思います」
―プリンスアイスワールドに出演してきた思いと、「ボレロ」への思いについて
「プリンスアイスワールドというのは40周年を迎えましたけれども、日本で最も伝統のあるアイスショーです。それから株式会社プリンスホテルが持っているショーですし、何よりもこの東伏見のダイドードリンコアイスアリーナ、それから新横浜アイスアリーナ、今はコーセーが冠スポンサーですけれども、そのスケートリンクで我々ゲスト陣もキャストのみなさまも稽古を積んで公演ができている。これはひとえにプリンスホテルさんの長年にわたるスケートへの支援、スケートに支援してくださったことによって40年間、伝統が築き上げられてきたショーだと思っています。ですので、その一員としてこのアイスショーをまた未来へと継承していくべく、私もその一員として次世代にいいプロダクトを手渡しできるように、頑張っていきたいと思っております。東京公演は今季一番の暑さという形で、立っているだけで暑いですけれども、体力勝負だと思っていますが、我々の情熱の方が暑いと思いますので、負けずに頑張りたいと思います。ボレロにつきましては誰もが知る、フィギュアスケートでもメジャーな音楽ですし、バレエや舞台の分野でもメジャーな音楽ですが、この音楽に基づいてスケートに取りつかれた1人の男を象徴的に表現していく作品になっています。この作品は制作陣である、アトリエタームとともに作り上げた作品ですけれども、1つ我々にとって集大成といえる作品になっていますので、みなさんご堪能いただけましたら幸いに思っています」
―町田さんが感じてきたスケートの魅力とは
「いやぁ、この記者会見の短い時間で語り尽くせるかってところなんですけれども、プロとして4年間、Atelier t.e.r.mという制作陣と歩んで参りましたけれども、この4年間で確信したことはフィギュアスケートという表現様式は舞踊の1ジャンルとして、確実に成立しうるという確信を得たということ。これを得たことによって、プロスケーターとしても晴れやかに引退することができると思っています。バレエやジャズダンスやヒップホップや、世の中には様々なダンスジャンルがありますけれども、その中の1つとして確実にフィギュアスケートが入る。なおかつ、フィギュアスケートでしかできない表現というものがある。たとえば高速で移動するとか、広大なスケートリンクを高速で同じポジションで移動するとかというのはフィギュアスケート、氷の上でしかできないことですから、そういう氷の上でしかできない表現というものを、このボレロでも突き詰めたつもりです。今での作品、たとえばドン・キホーテやスワンレイクといった作品はともすれば、氷上であることを忘れさせるかのような演出に取り組んできたんですけれども、ボレロは一転してここは氷の上なんだということを見ている人々に認識してもらうがための演出がたくさん盛り込まれているので、そこを1つ注目していただきたいと思います」
―プロ引退の思いはいつ頃生まれ、そのきっかけはあったのか
「私は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で大学院生として研究活動に同時にこの4年間励んできたわけですけれども、言ってみれば本業は大学院生だったんです。ですから学業とプロスケーターとしての活動が両立できないのであれば、いつでもプロスケーターを辞める覚悟で毎年毎年、毎作品演じてきたつもりです。実はこの4月から慶応義塾大学と法政大学で非常勤講師を務めていまして、このへんでキャリアを大学院生、あるいは非常勤講師としてのキャリアを一本に絞って頑張っていくべきではないかと考え、引退を決意しました。私の目標は大学教員として、研究活動を続けていくことですので、今後は10月以降はその夢に向かって、一歩一歩頑張って進んでいきたいと思っております。ただ、みなさまに申し上げたいのは、パンフレットの中でも語りましたけれども、今回も決してさようならは言いませんということです。パフォーマーとしては10月をもって完全に引退しますけれども、また大学院生として将来的には研究者としてフィギュアスケート界に貢献できることが必ずやあると信じていますし、そういう人材になれるように頑張っていきますので、これからもパフォーマーとは別の形とは思うんですけど、フィギュアスケート界とはつながっていきたいと思いますし、力になっていきたいと思っております」
―今後のプランは
「しばらくは博士号取得に向けて学業に専心したいと思っていますので、具体的にどういう形でフィギュアスケート界に貢献できるかということは現段階では申し上げられないんですけれども、私自身の研究対象の1つとしてフィギュアスケートは入っておりますので、絶対に必ずや力になれることが今後出てくると確信しているので、ファンのみなさまであったり報道陣のみなさま、フィギュアスケート界のみなさまには今後ともお付き合いよろしくお願いしたいと思いますし、その時が来るのを待っていただけたら、私もそこに向かって一生懸命頑張ることができます」
―非常勤講師の授業の内容は
「今は慶応大学も法政大学もダンス講師です。体育でダンス講師をやっています」
―ドクターを取得した後は教授として教員として大学で教えたいということか
「そうですね、大学教員になることが夢ですので、それに向かって就職活動とか色々と頑張っていきたいと思っています」
―10月6日をもって、もう氷の上でパフォーマンスすることは一切ないということか
「そうですね、はい。引退です」
―小さなスケーターにひと言
「いや、逆にですね、先ほど言ったように彼らとの練習時間がなければ、私はこの場に立っていないと思います。私の方こそ感謝したいと思っていますし、本当に若手から刺激をもらいました。一方で私も若いスケーターにとって、せんえつですけれども、模範となれるようにいつも毎時間毎時間、気を引き締めて練習していました。そういうかけがえのない濃密な練習時間が、今のプロスケーターとしての私を作り上げているんです。だから本当に感謝していますし、彼らに上達するチャンスはあると思っていますから、とにかくケガなく、やっぱり情熱だったり楽しさを持ってやることが一番成長につながると思いますので、私自身も一日一日、振付家として実演家として楽しみながらプロ活動をこの4年間、積んできて今があるので、それに尽きますね。フレッシュな気持ちを持って進んでいってくだされば」
―高橋大輔が現役に戻るが
「むしろ若いスケーターにとっては、チャンスだと思っています。経験豊富なベテランスケーターと一緒に競技会ができるということは、これから次世代を担うスケーターにとっては最大のチャンスだと思いますので、おおいに刺激にして、むしろ若いスケーターに激励の言葉を贈りたいと思います」
―短い時間で伺うのは酷だが、今の町田さんにとってフィギュアスケートとは
「酷すぎますね。暑いし。思考が…。間違いなく私は3歳からスケートを始めて今28歳、もうアラサーです。間違いなく25年間、氷の上に乗ってきましたけれども、今まで私にとってフィギュアスケートはアイデンティティーそのものだったと思います。これからは、かねがね現役時代は『町田樹ーフィギュアスケート、ニアリーイコールゼロ』といってそこで葛藤を感じていたわけですけれども、イコールそれっていうのはアイデンティティーだったわけで。でも、それだけじゃダメだと思ってこの5年間くらい、必死に勉強して努力して、その『町田樹ーフィギュアスケート、イコール』の先の数字をより大きくしようと努力を積んできました。今でもプロスケーターである以上、アイデンティティーの1つですけれども、今後はより広い視野を持ってフィギュアスケートと向き合っていきたいと思いますし、今は幸いどんどんどんどん、イコールの先の数字が大きくなってきているので、今後もその数字を大きくしていきたいと思うんですけれども、例え研究者になったとしても、私の研究分野の1つは間違いなくアーティスティックスポーツですので、フィギュアスケートも入っているので、パフォーマーとしてはもう付き合いはないですけれども、様々な形でフィギュアスケートと今後も真摯に全力で向き合っていきたいと思っております」
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