脇本雄太 規格外の超早仕掛け「400mの逃げは逃げじゃない」

[ 2016年5月25日 10:20 ]

日の丸をマントに見立て、さっそうとバンクを走る脇本
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 自転車の男子ケイリンで初めて五輪に出場する脇本雄太(27=日本競輪選手会)が、必殺のロングスパートで金メダルを狙う。常識外れの早仕掛けで早々に先頭を奪い、ゴールまで粘り抜くスタイルは、たとえ夢舞台でも不変。女手一つで育ててくれた母・幸子さん(享年51)の願いだった「世界一」を実現するため、渾身(こんしん)の力でペダルを踏む。

 流れる景色が加速し、風の音が変わる。意を決してペダルを踏み込むと、ライバルの息遣いも歓声も一瞬で置き去りだ。誰も動かないフィニッシュよりもはるか手前、そこが脇本の勝負どころ。競輪で繰り出すロングスパートは五輪のケイリンでも変わらない。初めて夢舞台に立つ27歳は、不敵な笑みを浮かべた。

 「競輪で長いスパートをかけて逃げ切る戦法を取っているんで。競馬の逃げ馬みたいなもんですよ。ハナ切って前に出たら、そのままいく」

 ホームの福井競輪場は1周400メートル。「僕は逃げる距離が極端ですから」。徹底先行にこだわる男は、残り1周での仕掛けなんて認めない。「400メートルの逃げは逃げじゃないでしょ。僕は遅くても600メートル、800メートルで行くことだってある」。日本代表合宿でトップスピードを維持できるタイムを測定すると持久系種目もこなすオムニアム代表の窪木一茂と同等の数字を叩き出した。

 体に宿るスタミナはきっと、最愛の人からの贈り物だ。脇本が中学に入学する前、両親が離婚。以降、看護師の母・幸子さんが女手一つで5人の子供を育てた。幸子さんは学生時代に陸上部で長距離が得意だったという。「短距離選手では群を抜く持久力」と言う代表の坂本勉・ヘッドコーチは、「天性のものだと思う」と続けた。

 肺活量は5900ccを誇る。持って生まれた持久力を生かすべく、脇本はさらなる進化を遂げようとしている。今年3月の世界選手権は5位に入った。「うまくやればメダルを獲れた」。優勝したのはドイツのアイラース。「とてつもなく強い。ついていって主導権を取り勝負しようとしたら、反応が遅れた。ダッシュについていけなかった」。瞬発力が課題と痛感した。

 弱点を克服するため、筋力アップに加え、80キロのスピードで先導するバイクに食らいつく、トレーニングも課している。「立ち遅れないためにトップスピードを上げて回転力を維持するような練習をしている」。5日までの日本選手権で競輪に一区切りをつけ、今はケイリン・モードで夢舞台へ歩を進めている。

 ▽ケイリン 日本発祥の競輪が元になっている種目で、男子は00年シドニー五輪から、女子は12年ロンドン五輪から正式採用された。1周250メートルの室内トラックを8周する。先頭誘導車は残り2周半で離脱。1組5~8人の選手が着順を争い、トーナメント方式で勝ち上がる。敗者復活戦も行われる。過去の日本人メダリストは08年北京大会の男子で銅メダルだった永井清史のみ。

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