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新体操日本代表を支える美の力 五つ子の妖精導く金色のメーク術

[ 2019年12月2日 09:30 ]

 東京五輪・パラリンピックは大会やアスリートを企業もさまざまな技術で支える。本番でのメダルの期待が高まる新体操団体の日本代表「フェアリージャパン」は国内大手化粧品メーカー「POLA(ポーラ)」がメークをサポート。そこには金メダルへ導く美の力があった。 (藤原 真由美)

 手鏡を持ち、アイラインを真剣な表情で引く選手たち。

 ロシアを拠点としているフェアリージャパンが数カ月に一度帰国するタイミングで、ポーラの「美容コーチ」と呼ばれるスタッフがメークの指導に訪れる。チームの公式スポンサーを務める同社が07年から行っている事業だ。

 「あなたはアイラインをもう少し太めに。妖精(フェアリー)の翼をイメージして、目尻のラインは跳ね上げるように描いて」

 2010年から担当する桝浩史さん(37)は選手一人一人に向かい合い、具体的に分かりやすく教えていく。

 直接採点されるわけではないが、メークは大きな役割を担う。新体操の団体戦は同調性が重視される競技。そのため、メンバーの顔や表情も皆そろって同じように見える方が優位とされる。大会でのメークは選手自身が施すため、腕前も悲願のメダル獲得には重要な要素となってくる。

 メークそのものの色合いやスタイルは、その年の演技や衣装に合わせたものを提案。中でも大切にしているのはメンバー5人の“五つ子”感だ。

 美容コーチは目が大きい選手はアイラインを控えめにするように教え、丸顔の選手は鼻筋や額にハイライトを長めに入れるように助言するなど、ほかの4人とのバランスを考えて設定した“基本顔”に導いていく。

 コーチは社内数人のチーム編成。すべて美容に携わってきたよりすぐりのエキスパートだ。桝さんは現在、百貨店事業のマーケティングを担当している。客それぞれに合ったメーク商品を薦める販売員を指導する仕事に携わった経験から、メンバー入りした。

 「中学生から日本代表入りする場合もあるので、成長を見続けてきた選手もいます。今では、選手に普段のメークのアドバイスを求められたりもします」と良きお兄さんのような存在にもなっている。効果は腕前のアップだけではない。桝さんらが指導した“お姉さん選手”が若い選手のメークを手助けするなど、チームワークにもひと役買っている。

 フェアリージャパンは今年9月に行われた世界選手権の団体総合で44年ぶりの銀メダルを獲得し、20年出場権を獲得したほか、東京五輪でのメダル獲得の期待も高まった。

 桝さんは「うれしかったです。競技中もやはりメークを見てしまいますね。教えたメークを頑張ってやってくれています」と躍進を喜んだ。

 来年の東京五輪。「なかなか携われることではないので、楽しみではありますが、彼女たちには期待や注目も集まるでしょうから、私たちはむしろいつも通りに同じ気持ちで接したい」と本番へ向かう環境づくりにも万全を期す。ホスト国として注目も集めるため「“今までより日本を意識したメークを作れればいいな”と今からいろいろ妄想しています」とより良いアイデアを練っている。そして迎える本番。「せっかくですから演技を会場で見たい。見たら泣いてしまうかもしれません」

 選手からは「メークがうまくいくと演技に自信がもてる」の声が上がる。“メークミラクル”で金メダルを目指していく。

 《フェアリージャパン メークのポイント》
 <1>細胞レベルで分析 選手一人一人の肌を細胞レベルで分析。肌に合った基礎化粧品でベースを作る。代表選手はロシアを拠点にしており、気温や湿度、食べ物、水などの環境が日本と違う。その部分もケアする。選手の年齢層も異なるため、油分や水分なども個人に合わせる。

 <2>叩き込み 試合中の大量の汗で崩れないために、通常のメークで使用する下地は使わない。リキッドファンデーションを地肌に直接つける。しかも、スポンジで叩いて叩いて「肌に押し込む」。肌に密着させるために1カ所1分以上も叩く。

 <3>目力演出 フェアリージャパンの一番のメークの特徴は目元。欧米の選手に比べるとどうしても平たんな日本人の顔。“彫り”を作り、印象的な目元にするために、アイシャドーは幅広に。妖精の翼もイメージしている。アイラインも太めで意志の強さを表現。シャドーとラインの間を黒のラインで埋め、伏し目の表情もナチュラルに。

 <4>立体感 15メートル先の審査員や観客から生き生きと見えるように。幼く見えがちな日本人をエレガントにする練り状のハイライトを鼻筋や額、頬骨など高い位置に入れる。

 <5>赤リップ 最後に付ける口紅は日の丸をイメージした「赤」と決めている。真っ赤なリップは選手の試合に向けた“スイッチ”にもなっている。

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2019年12月2日のニュース