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【川崎Fを支える人】清水泰博主務 悲願のACL制覇へ、海外でも“いつもの環境”を

[ 2022年4月12日 08:00 ]

清水泰博主務(C)川崎フロンターレ
Photo By 提供写真

 ACLの1次リーグが、いよいよ15日に開幕する。川崎Fにとって9度目の挑戦で目指す悲願のタイトルだ。集中開催の地、マレーシアは高温多湿の上、試合は中2日で6試合。ハードな日程を戦い抜く選手はもちろん、その陰にはクラブで働く多くの人の努力がある。今回は3人の「支える人」を連載で紹介。第1回は主務の清水泰博氏(39)。

 清水氏は、“日常を作り出す人”だ。異国でも選手がストレスなく試合に向かいやすい環境を整えるため、あらゆる準備を担う。「できるだけ日本での環境に近づけなきゃというのがありますね。ホテルの使い方、練習場の環境などをいかに早く落ち着かせるか。そこが僕ら的には一番の勝負」と話した。

 業務は細やかで多岐にわたる。フライトの手配一つとっても、旅行会社の担当者と話をしながら、どんなルートが最適かを検討する。チームは今回、チャーター機でジョホールバルに入った。直行の定期便を探してもなかったため、クアラルンプールで乗り継ぐルートや、シンガポールからバスで国境を越えて入るルートも検討した。

 ただ、空港での新型コロナウイルスの検査時間や荷物の積み替え作業等を含めると、移動だけで2日がかりとなる可能性があった。費用はかさむが、よりよいコンディションで臨めるよう、会社はジョホールバルに直行できるチャーター機の使用を許可。清水氏は「頑張ってこいという期待の表れだと思う」と感謝する。

 他にも、到着後のホテルの部屋の確保を行うのも仕事の一つ。チームはブラジルでリハビリ中のDFジェジエウを除いて全員でマレーシアに渡った。スタッフを含めると総勢60人弱の大所帯。アジアサッカー連盟からあてがわれる数だけでは足りないため、直にホテルと交渉し、2、30人分を新たに追加で予約した。

 遠征にはシェフも帯同する。万が一、現地で食料を調達しなければいけないときのことも考えて、日本食の食材を購入できる場所があるかどうかも事前に調べておく。「ジョホールには5500人くらい日本人の方がいて、すぐに日本人の方とつながりました」。必要に応じて、外から材料を手配できるルートもめどがついた。

 約3週間の遠征中、選手は感染対策のため外部には自由に出られず「バブル内」で過ごさなければならない。必然的に一人の時間は多くなる。リラックスできるピッチ外の環境作りも清水氏の腕の見せどころだ。選手やスタッフにとってあったらうれしいアイテムを取りまとめ、事業部を通じてスポンサー企業に提供を願い出た。

 フリーズドライのみそ汁にガム。一人時間を充実させるイヤホンに充電器関連の電化製品。入浴剤にシャンプー。結果、マレーシアでの生活が少しでも日本での生活に近づくためのアイテムを、多くの企業から提供してもらうことができた。「かなり助かっています」と同氏。チームの戦いを外から支えてくれる提供に感謝した。

 トレーニング用具にウエア、補食の準備など、準備の対象は数多い。これだけ多くの準備をしているように見えても、「あまり力を入れすぎずにやっていますけどね」と柔らかく笑う。11年に主務に就き、ACLは今回が6大会目。「予定していても想定通りにいかないことがある」。それこそがアジアの戦いだからだ。

 昨年もウズベキスタンでの1次リーグ中、ホテルで停電が発生した。「昼食の時間帯に停電してエレベーターが止まって、食事もできなかった。でも慌ててもしょうがないので」と同氏。できるだけ多くのものを日本から持っていくことが準備の正解ではない。大切なのは、不測の事態が発生したときに臨機応変に対応できるかどうか、なのだという。

 気を張りすぎずにいることを心掛けているのは、「固めすぎると逆に動きづらくなったりする」からだ。特に新型コロナ禍では隔離等のルールが急に変更される可能性もある。「今回も隔離がどうなるか行ってみないと分からないことがある。行ってからが勝負というか、つかみながらやっていく」と話した。

 「(ACLは)僕らから見て、選手がたくましくなっているポイント。予定通りではないときにどう“いつも通り”に持っていけるか、メンタリティーが鍛えられる場でもある」。自身の立場から選手の成長を目に焼き付ける。どんと構える清水氏がいるからこそ、異国でも日本のように、チームは目の前の試合に集中できる。

 ◇清水 泰博(しみず・やすひろ)1983年(昭58)3月24日生まれ、佐賀県佐賀市出身の39歳。11年から主務。家族は妻と二女。

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2022年4月12日のニュース