【追憶のエリザベス女王杯】“スナイパー”的場均、照準ピタリ 97年エリモシック戴冠導いた

[ 2022年11月9日 07:00 ]

97年のエリザベス女王杯を制したエリモシック(5)
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 ジョッキー的場均は競馬ファンとして90年代を送った者からすれば、欠かすことのできない人物。ライスシャワーとのコンビでは、92年菊花賞でミホノブルボンの3冠を、93年天皇賞・春でメジロマックイーンの同レース3連覇も阻止。寡黙で仕事にひたむきな人柄と、記録の懸かった圧倒的1番人気馬を撃破する様子は、超一流のスナイパーを思わせた。97年エリザベス女王杯も、的場均のスナイプ歴を彩るレースの一つ。

 1番人気は前年覇者ダンスパートナー。97年は春に香港遠征して8着。その後は国内で3、3、2着と勝ち切れなかったが、そのレースと勝ち馬が鳴尾記念バブルガムフェロー、宝塚記念マーベラスサンデー、京都大賞典シルクジャスティス。並み居る牡馬の強豪としのぎを削ってきたこと、前年Vの実績が加味されて単勝1・4倍の断然人気。2番人気が同年の日経新春杯で牡馬を撃破したメジロランバダ。3番人気が的場均騎乗の前年秋華賞2着馬エリモシック。単勝8・8倍。

 エイシンサンサンが引っ張るペースは前半1000メートル59秒4。このレースはメンバーによってペースが大きく左右されるが、ダンスパートナーに騎乗していた河内洋は「速くもなく、遅くもなく理想的だった」と振り返っている。15頭立ての11番手。ダンスパートナーの末脚をフルに発揮すれば勝てる…という信頼がにじみ出る位置取り。その一列後ろ、13番手に陣取ったのが的場均エリモシック。

 エイシンサンサンが3~4コーナーで後続を引きつけるようなペースにして、馬群は大きく広がる。河内ダンスパートナーは抜け出す位置を探るような挙動。それでも慌てることはなくダンスパートナーを馬群の外に持ち出してスパートした。的場エリモシックはその時、いったん引きつけ、扇のように開いた馬群の隙間があらかじめ分かっているかのように一気の仕掛け。それはダンスパートナーの1頭ぶん外だった。エイシンサンサンが粘ったが、2頭と脚勢の違いは明らか。伸びるダンスパートナーとエリモシックの追い比べは、エリモシックが優位に運んでゴールに飛び込んだ。

 的場均がレース後、振り返る。「最後は必死でした。かわした後に河内さんが立て直してきた。なんとかしのいでくれ…という気持ちで追いました。よく辛抱してくれました」

 ダンスパートナーとエリモシックの10数秒に渡る叩き合いには名手同士の駆け引きもあったが、エリモシックが首差の勝利を収めた。

 的場均の1番人気馬を直前に置く道中の位置取り。勝ちにはやることなくスペースを見据えた仕掛け。京都外回りの直線入り口は外に振られる馬が出て馬群がばらけるのは確かだが、ひと呼吸待つ冷静さは、まさに的場均の真骨頂を思わせる騎乗。

 「京都のG1はライスシャワーの3勝があって、これで4勝目。相性がいいと言われますが、本当ですね」

 レース後、的場均は少し口元を緩ませた。ライスシャワー(菊花賞、天皇賞・春2勝)、エリモシック、アグネスデジタル(マイルCS)。関東ジョッキーにもかかわらず、京都のここ一番で実に勝負強かった。

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2022年11月9日のニュース