萩本欽一 3分番組7本分で収録6時間 「9階のハギモトさん!」の特異な現場

[ 2025年11月21日 11:00 ]

「9階のハギモトさん!」の収録で熱く語る萩本欽一
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 【牧 元一の孤人焦点】これまで見たことのない特異な収録現場だった。台本はあるが萩本欽一が話す言葉は全てアドリブだ。萩本はずっと何やら考え続けている。ずっと何やら話し続けている。それは何か面白いこと、何か新しいこと。本番とそれ以外の時間の境界線があいまいだ。自然な流れで本番が始まり、そして終わる。バラエティー番組だが収録自体はドキュメンタリーのようでもある。

 10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」(火~木曜、前5・26、再放送は同日、後10・56)はわずか3分の番組。スタジオは萩本の都内の事務所で、この日は7本分の収録だったが、放送時間計21分のために複数のカメラが萩本の思考と語りを追い続け、最終的に計360分もの長い時間を要した。

 その中で印象に残る言葉がいくつもあった。実際に番組で使用されるかどうかは分からないが、例えば、ラーメンをよく食べるという話で「ラーメンが好きなんじゃなくてコショウが好き」。または、自身がずっと中古の家に住んで来たという話で「新築に住まなかったのはテレビで成功したかったから」。もしくは、番組企画の「欽ちゃんのダメよキューピー人形」製作に携わっているのが30代女性という話で「30代はまだ運を使い切っていないから人形は成功するかも」。

 それらの言葉に萩本の個性と人生観がうかがえた。昭和の時代に出演番組を全てヒットさせ「視聴率100%男」とたたえられたコメディアンの内面は興味深い。それを浮き彫りにすることがこの番組の使命なのかもしれない。

 企画・演出の日本テレビ・田中裕樹さんは発端をこう振り返る。

 「萩本さんが昨年の終わりくらいに『新しい番組を作るのではなく新しいテレビを作りたい』と言い始めました。『テレビというのは奇跡が起こるもの。もう一回テレビで奇跡を起こしたい』『80歳を超えたけれどまだ半分やり残している』と話していました」

 田中さんはテレビ局員でありながら萩本に弟子入り志願した人。弟子入りこそかなわなかったものの、そこから交友関係が生まれ、最近では「欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞」で仕事を共にしている。

 「萩本さんはフジテレビの問題を深刻に受け止めていました。あの問題でフジからスポンサーが離れていった。民放はCMがなければ番組を作れない。自分たちは傲慢になっていたのではないか?だから、スポンサーが戻ってくるようなものを作りたい。昔は子供たちがあこがれる職業にテレビ局のディレクターが含まれていたけれど今はユーチューバーに取って代わられている。だから、もう一回テレビを子供たちにあこがれられるメディアにしたい。そんな思いが萩本さんにあります」

 萩本はこの番組をスポンサーなしでスタートさせた。「番組を作る前から『スポンサーになってください』というのは虫が良すぎる。まずは自分で番組を作り、それをご覧頂き『応援したい』と思って頂いたらスポンサーになって頂く」との思いからで、制作費は自身の預貯金から捻出している。

 田中さんは番組の方向性をこう話す。

 「萩本さんは新人を発掘したいと考えています。これまでテレビに出ていない人をスターにするようなことをしたい。それを誰にも気づかれないようなところで始める。それで早朝のBSの3分番組。それがいつか認知され、番組にスポンサーがつき、放送時間が長くなる。出ていた素人が有名になる。それが萩本さんのビジョンです」

 この番組には建築家志望の大学生・本多和声さんが出演している。もともとは萩本が偶然テレビを見ていて目にとめた人物で萩本は「いつかとんでもない建物をつくる気がする」と期待している。もう1人、萩本らの会話に時折口を挟みながらも氏名や経歴などがいまだに明かされていない「陰の声」の男性も今後の動向が気になる人物だ。

 進行役を務める日本テレビ・杉原凜アナウンサーも良い味を出していて、この日の収録でも、時に鋭角的な言葉を萩本に投げかけることで番組に抑揚をつける役割を見事に果たしていた。これを機にさらにアナウンサーとしての人気が高まるかもしれない。

 今回の収録の中で、萩本が過去に番組で数多くの人気者を作ってきたという話になった。萩本はこう語った。「テレビで成長させるのはオレじゃない。空気」。空気の詳細は説明しなかった。時代の空気なのか、スタジオの空気なのか、もしくは、その人自身がまとっている空気なのか、それとも、萩本とその人物の間の空気なのか…。いずれにせよ、テレビで人気者を作るのは単純ではなく容易ではないということが伝わって来た。

 6時間にも及んだ収録が終わり、制作スタッフがスタジオの後片付けを始めても、萩本はソファから立ち上がらず、田中さんや共演者らと話し続けていた。何か面白いこと、何か新しいことを探り続けていた。84歳にしてまだまだエネルギーがあり余っているようだ。日本のテレビ史に輝くコメディアン、萩本欽一はやはり尋常な人ではない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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