【岸本加世子 我が道12】敵役を褒める「久世マジック」 格闘シーン前に…

[ 2025年11月13日 07:00 ]

「真夜中のヒーロー」の制作発表。演出の久世光彦さんを囲んで(後列左から)岩城滉一さん、私、芦田伸介さん、大場久美子さん
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 右も左も分からないまま芸能界に飛び込んだ私を厳しくも愛情をもって接してくださったのが演出家の久世光彦さんです。樹木希林さんをはじめ脚本家の向田邦子先生や森光子さんたちに引き合わせてくださった恩人も2006年3月2日に70歳で彼岸の人になりました。

 デビュー作の「ムー」をはじめ「ムー一族」「源氏物語」などなど多くのドラマで鍛えていただきましたが、こちらの作品も忘れられません。1980年3月28日から5月23日まで日本テレビ系列で放送された「真夜中のヒーロー」です。

 東海地方にある都市が舞台。市長は人形作りが好きな娘と2人暮らしをしていたが、若い看護師と密会を重ねて…といった展開で、私は市長と関係を持つ看護師を演じました。

 当時のテレビといえば、土曜日の午後8時だったらザ・ドリフターズの「全員集合!」とか、何曜日の何時は何を見るか多くの人が決めていた時代。ちなみに「ムー」は萩本欽一さんの「欽ちゃんのどこまでやるの!」がライバルでした。

 毎週金曜日の午後9時から放送された「真夜中のヒーロー」も、その時間帯、それまでは欽ちゃんファミリーの番組がオンエアされていたと記憶しています。

 その頃のこと。週刊誌のコラムに「岸本加世子を全裸にして飼いたい」と書いた作家がいたようで、久世さんから、ドラマが始まる前に流れる映像は、私が檻(おり)に入れられ、しかも全裸で「ああ…落ちる…」と呟(つぶや)くシーンにするぞ、と聞かされました。なんか変だなぁ、イヤだなぁと思いましたけど、そんなことを言うのは悔しくて、全然気にしてないそぶりで演(や)っていましたね。

 すると今度は久世さんが、私の前では市長の娘・みゆきを演じた大場久美子さんをやたらと褒め、次第に私に大場さんを意識させるように仕向けました。格闘シーンの前のことです。そして、いざ乱闘が始まると、5分6分の長回し。女同士の修羅場がリアルに映し出されました。今思えば、大場さんと私の関係を険悪にするための作戦…「久世マジック」だったのかもしれません。

 内容が過激だったため9回で打ち切りになりましたが、冒頭の演出だけでなく、大場さんとの格闘シーンも語り草になっているようです。面白い現場でした。

 密会相手の市長を演じてくださった芦田伸介さん。本読みの時に私が「お土産」を「おどさん」と読んでしまうと、芦田さんがそっと広辞苑をプレゼントしてくれたんですよ。「芦田伸介より」と書かれてあり、今でも大切に持っています。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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