【岸本加世子 我が道11】ラストシーンに父ゆかりの地 山田洋次監督らから根掘り葉掘り聞かれ

[ 2025年11月12日 07:00 ]

阿寒湖で行った舞台「雪まろげ」北海道キャンペーン。(左から)泉ピン子さん、演出の三木のり平さん、私、森光子さん
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 突然逝ってしまった向田邦子先生には感謝の思いしかありませんが、先生との出会いも含めて恵まれた女優人生を歩んできました。1980年代に入っても充実した仕事は続きます。

 森光子さん主演の舞台「雪まろげ」への出演も忘れられません。演出家の久世光彦さんから引き合わせていただきました。久世さんが手がけたTBSドラマ「時間ですよ」(65~90年)に主演されたのが森さん。ごあいさつすると「いつか一緒に舞台やりましょうね」と言葉をかけてくださいました。

 実現したのが80年の「雪まろげ」芸術座公演。温泉芸者・夢子の小さなウソから始まるドタバタあり涙ありの人情喜劇で、三木のり平先生の演出は本当に楽しいものでした。

 舞台に出ていって一言しゃべって戻ってくるという場面があって、それを見ていたのり平先生が「なんか今、ミズスマシが通ったぞ。しゅっしゅっと出て、しゅっしゅっと帰っちゃった」とおっしゃる。その言い回しがおかしくって、噴き出しちゃいました。

 翌81年にはあの国民的映画「男はつらいよ」で渥美清さんと共演することもできました。12月29日に正月作品として公開されたシリーズ第28作「寅次郎紙風船」です。大分県の旅館で相部屋になった家出娘と旅をすることになった寅さん。珍道中を繰り広げる娘の役をいただきました。

 撮影に入る前、山田洋次監督と脚本家の朝間義隆さんが脚本作りのために定宿にしていた東京・赤坂の旅館に呼ばれ、あれこれと質問を受けました。

 「お父さんはどんな人だったの?」と聞かれたので、「父は静岡県焼津港のマグロ船の漁師で、小さい頃、出港の時に紙テープを投げて見送った光景を覚えています」と答えました。山田監督と朝間さんは私の話を丁寧に聞いてくださり、なんとラストシーンの場所を焼津港にしてくれたんです。父ではなく兄という設定ではありましたが、地井武男さんがマグロ船の漁師役で私の兄を演じてくれました。

 「妹が世話になった」と、地井さん扮する兄がマグロを背負って柴又の老舗団子屋「高木屋」にお礼に来る場面もつくられ、そしてエンディングは焼津港での寅さんとの再会シーン。ありがたかったです。地井さんには静岡弁を教えました(笑い)。

 撮影は松竹の大船撮影所。所内はセットと俳優部の控室が離れていて、自転車を使って移動するほどでした。行ったり来たり大変ですから、渥美さんのお部屋はスタジオのお隣に用意されていました。テレビや茶だんす、全部そろっているんですよ。

 休憩になると渥美さんはそこに入られるんですが、ある時、「加世子ちゃん、おいで」と招き入れてくださいました。いろいろなお話、楽しかったなあ。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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