仲代達矢さん死去 “師匠”に諭された「善と悪」

[ 2025年11月12日 05:30 ]

仲代達矢さん(2019年撮影)
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 黒澤明監督の映画「影武者」「乱」や小林正樹監督の「人間の條件」シリーズなどに主演した俳優、仲代達矢(なかだい・たつや、本名元久=もとひさ)さんが8日午前0時25分、肺炎のため都内の病院で死去した。92歳。東京都出身。葬儀は関係者で行う。お別れの会は予定していない。

 【悼む】映画でも芝居でも登場人物を善か悪かでしか判断しない時期があった。勧善懲悪劇の西部劇や東映時代劇、日活アクション映画にどっぷり漬かっていたからだろう。ある時、故岡本喜八監督宅に遊びに来ていた仲代達矢に「人間は善人か悪人かではない。どんな人の中にも善と悪が棲んでいるんだ」と諭された。その後、当時仲代が所属していた俳優座の公演「オセロ」でタイトルロールを演じた彼の描く人物像は、なるほど単純な人物造形をしてはいなかった。

 以来、私は仲代のことを“師匠”と呼んでいたが、呼ばれた方はあまりいい顔をせずに、どちらかといえば迷惑そうな感じだった。

 仲代のあだ名は「モヤ」。古い俳優仲間はみんなそう呼ぶが、語源は日ごろからモヤーッとして無口だから、ではなくて、本名・元久から母が「モーヤ」と呼んでいたからだとは当人の弁。その母は大の仲代ファンだった。俳優座の初舞台の時客席で「ほら、あれがうちの息子、あれが息子よ」と叫ぶ声が舞台にまで聞こえてきて参ったよと述懐している。ある時は「お願いだからテレビに出ておくれ」と懇願され、理由を尋ねると「あなたの息子は売れなくなったねって近所の人たちに言われるから」。その時出演したのが1972年、NHK大河ドラマ「新・平家物語」の平清盛役だった。

 以来、どんなに忙しくても舞台半年、映画半年というローテーションを守った。そんな俳優は世界中どこにもいない。「稽古は最低3カ月は欲しい」と意外なことをいうほどの稽古好きだった。

 2022年、北千住シアター1010で演じた松本清張原作「左の腕」はこれまでと違っていた。肩の力がすっかり抜けていた。翌23年、同じシアター1010で公演された「バリモア」には残念ながらかつての力強さが欠けていた。合掌。=敬称略=(スポニチOB・木村 隆)

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