【岸本加世子 我が道8】向田邦子先生に嫌われてる?ごあいさつしたら…

[ 2025年11月8日 07:00 ]

向田邦子先生には本当に可愛がっていただきました
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 「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など数多くのテレビドラマの脚本や、「父の詫び状」などの随筆で知られる向田邦子先生。1980年には短編連作小説集「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で直木賞も受賞されています。TBSの演出家だった久世光彦さんとは「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」でも仕事をしており、深い信頼関係を築いていました。

 その久世さんが手がけた時代劇「源氏物語」(80年1月3日放送)が運命的な出会いとなりました。光源氏を沢田研二さんが演じ、脚本を書かれたのが向田先生でした。

 プレーボーイの主人公・光源氏と8人の女たちが繰り広げる平安絵巻。八千草薫さんや倍賞美津子さん、いしだあゆみさんら華やかな女優陣も話題を呼びました。このドラマにわたしは小侍従という小さい役で起用されました。

 久世さんに「光源氏に楯突いてビンタされるっていうだけのちっちゃい役だけど、お前をキャスティングしたら向田さんからNGが出た。“あの子は小賢(こざか)しい芝居をするから嫌い”だと。それで“何十人と他の女優さんに当たったがみんな仕事が入っていて岸本加世子しか空いてない。すみません”って謝ってキャスティングしたから、お前、心してやれよ」と言われました。

 数日後「源氏物語」の本読みを兼ねた俳優たちの顔合わせがあり、そこに向田先生の姿がありました。始まる前、「この方に嫌われてるんだなあ」と思いながら「岸本加世子と申します。小侍従をやらせていただきます」とこわごわごあいさつに行きました。

 すると椅子に腰掛けていた向田先生がパッと立ち上がり、私の肩を抱かんばかりに「まあ、ありがとう。よろしくね。うれしいわあ」と…物凄く喜んでくださっているみたいなのです。

 「あれっ?嫌われているんじゃなかったのかなぁ」

 戸惑いました。まるでキツネにつままれているような…どうやらこれは久世さんがわたしにハッパをかけるための作戦だったかもしれないですね。

 ドラマの撮影が終わるか終わらないかのうちにいただいたのが「あ・うん」への出演話でした。製薬会社に勤務する水田仙吉と、親友で仙吉の妻たみをひそかに愛している実業家の門倉修造。昭和初期の時代、風俗を背景に描いた向田先生の代表作の一つです。

 フランキー堺さん演じる仙吉と吉村実子さん演じる妻たみの一人娘さと子の役で起用されました。向田先生ご自身を投影した役。恐縮するばかりですが、光栄なことだなあと背筋がピーンと伸びた感じがしました。

 「ドラマ人間模様 あ・うん」は80年3月9日から同30日までNHKで全4話で放送されました。杉浦直樹さん、殿山泰司さん、岸田今日子さん、志村喬さん…素敵な方がたくさん出てらっしゃいました。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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