【岸本加世子 我が道4】「なぜこんなに怒られなきゃいけないの」 久世光彦さんの計算ずくの厳しさ

[ 2025年11月4日 07:00 ]

「ムー」の続編「ムー一族」の放送前にスポニチさんの取材に応じた一枚です
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 1977年放送のTBSドラマ「ムー」で女優デビューしましたが、演出の久世光彦さんにはしごかれました。養成所などで演技を学んだことのないド素人。発声ひとつ満足にできないわけですから、今から思えばありがたい訓練でしたが、当時は「なぜこんなに怒られなきゃいけないの。こっちからやらせてくれって言ったわけでもないのに」と恨めしく思ったのも事実です。

 ヘビースモーカーで常にピース缶を手放さなかった久世さん。その缶の角で頭をコチンと叩かれたり、どれだけ怒られたか。今でも鮮明に覚えてます。

 でも、その半面、優しいところもたくさんあったんですよ。例えば第1話。ザ・ドリフターズのいかりや長介さんがゲスト出演されました。田舎から出てきた私が、たまたま通りかかったいかりやさんに「うさぎ屋はどちらですか?」と尋ねる。すると「あっち」という、たったそれだけの場面。私の登場シーンに花を添えてやりたいと、久世さんがいかりやさんに頭を下げてくださったと後から聞きました。

 演じたお手伝いの「香川カヨコ」は「はーい」と、とても気持ちの良い返事をする少女でしたが、それもテレビを見ている親御さんたちが「ほら、カヨちゃんみたいに、ああいう返事をしなさい」とお子さんに言えるようにとの久世さんの思いが隠れていました。

 お母さんの肩をもんだり、手のひらにお豆腐を乗せて包丁で切ったり…そうした日本の良き風習や日本人の心をドラマで伝えようとしていたんです。ドラマの内容は過激でぶっ飛んでましたが、根底にはそういうものが流れていた気がします。洗濯物を干すシーンや季節の祭りなどを盛り込んで、日本を感じさせるものが必ず出てきました。

 ド素人で何もできない小娘が大ベテランの皆さんの中にポツンと入っての現場。久世さんに叱られてべそをかいていると、皆さんが「大丈夫だ、加世子ガンバレ」と励ましてくれるんです。渡辺美佐子さん、伊東四朗さん、伴淳三郎さん、左とん平さん、たこ八郎さん…。その時は全く気付かなかったのですが、そうなることを見越しての久世さんの計算ずくの厳しさだったようです。

 家政婦の「金田(かねた)さん」役で出演なさっていた樹木希林さん。「ムー」への出演が本決まりになった後、久世さんに、当時、赤坂のTBS会館の下にあった「シド」というフレンチレストランに連れていかれました。そこにいらしたのが「寺内貫太郎一家」(74年)のおばあちゃんの扮装をした希林さん。老けメークで脱色した白髪が目に飛び込んできました。

 「今度、デビューする岸本です」とあいさつすると、希林さんが「あんたね、処女の役やるんだから眉毛そっちゃダメよ」とポツリ。その頃、細い眉毛がはやっていて、ヤンキーだった私もきれいにそっていたんです(笑い)。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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