萩本欽一 特殊性が充満する「9階のハギモトさん!」

[ 2025年10月30日 11:00 ]

「9階のハギモトさん!」でキューピー人形とコラボした萩本欽一(C)BS日テレ
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 【牧 元一の孤人焦点】その言葉に萩本欽一(84)の個性が表れていた。共演者から「普段どういう番組を見ている?」と質問された萩本はこう答えた。「数字(視聴率)が悪い番組。悪い番組を見て何かに気づく。この番組が始まったらまず見るね」。この番組とはBS日テレ「9階のハギモトさん!」(火~木曜、前5・26、再放送は同日、後10・56)のことだ。

 番組は10月7日にスタート。放送時間は3分。スタジオは萩本の事務所。スポンサーがついておらず制作費は萩本の預貯金から捻出されている。

 放送開始に当たり萩本は「番組を作る前から『スポンサーになってください』というのは虫が良すぎる。まずは自分で番組を作り、それをご覧頂き『応援したい』と思って頂いたらスポンサーになって頂く。作りながら成長する番組」とコメントしている。

 番組の内容は多重構造。いつ何が飛び出すか分からない面白さがある。

 第1回はニュース仕立ての番組趣旨説明、第2回と第3回は他の出演者から萩本への質問、第4回と第5回は番組誕生ドキュメンタリー、第6回は萩本が食べる弁当に関するクイズ、第7回と第8回はキューピー人形とのコラボ…。

 企画・演出の日本テレビ・田中裕樹さん(57)は「試行錯誤しながら作っています。萩本さんのテレビ論に『最初に始めた企画は当たらない』というのがあります。駄目ならすぐやめる。これは行ける!と思ったものをやる。考えて作った番組はその考えを超えることができない。賛否両論あっていい。番組づくりで萩本さんは『楽をしたくない』と言っているので、萩本さんがやりにくいこともやってもらう。質問の回を作ったのは、かねて萩本さんが共演者に『質問しちゃ駄目』と言っているという伝説があるからで、ならば、この番組では萩本さんに質問しまくろうと…」と明かす。

 質問するのは若い女性3人。日本テレビの杉原凜アナウンサーは分かるとして、あとの2人「建築デザイン学科4年わせい」「経営学部2年おうか」と記述された姉妹はいったい何者なのか。第10回の放送で「わせい」は建築家志望の大学生・本多和声さんで、この番組のセットを手がけた人物であることがようやく説明されたが、第2回で萩本への質問を始めた段階では不明だった。さらにもう1人、第1回から時折口を挟んでいる「陰の声」の正体はいまだ明らかにされていない。

 田中さんは「和声さんは萩本さんがテレビを見ていて関心を持った女性です。この番組の打ち合わせの時『昨日テレビを見ていたら、大家族で、建築家を目指している女の子が出ていた。あの子は最高だな』と萩本さんが言ったので、『その子に番組のセットを作ってもらいましょうか?』と提案すると『それは新しいな』と乗ってくれました。萩本さんはこれまでテレビで多くの人をスターにして来ましたが、有名建築家は作っていません。萩本さんは『あの子はいつかとんでもない建物を作る気がする』と期待しています。番組で最初に彼女に関して説明しなかったのは、そうすると『それは普通だね』と萩本さんががっかりするからです。『陰の声』はこれからテレビに出したい人ですが、萩本さんが『すぐに出したらもったいない。面白いことを言う人なので顔の前に言葉を出した方がいい』と言うので、まずはそこらへんに置いておこうと思いました」と説明する。

 質問の回のカメラアングルが奇抜だ。萩本が手前にいて女性3人がはるか後方にいる。質問者はいちいち萩本の背中に向けて大きな声を発しなければならない。普通なら避けるだろう。

 田中さんは「萩本さんが『向き合って話すのは嫌。別の方法を考えて』と言うので、あのようにしました。あえて良い画質のカメラで萩本さんをアップで撮っているのですが、それは萩本さんの生命力を表現しようと考えたからです。萩本さんは嫌だったと思いますし、収録で全員が『やりにくい』と言っていましたが、結果として萩本さんは『これは新しい。やりにくいことをやると何かが見えるかも』と喜んでいました」と語る。

 この番組はワンクール計36回で年内に終了する予定。第8回で「欽ちゃんのダメよキューピー人形」が製作されることになったのだが、製品が最終回までに完成するのはどうやら困難らしい。

 田中さんは「その方がいいんです。萩本さんが目指しているのは、広がること。放送期間中にだけ物事が起きるのでは狭い。3カ月の間にスポンサーを見つけなければ…いま見ている人に何かを残さなければ…と考えると、どんどん狭くなってしまう。あのキューピー人形が半年後に販売されて話題になれば、何かの番組で取りあげてもらえるかもしれない。この番組をツークール放送するよりダイナミックな展開があるかもしれません」と未来を見据える。

 萩本は昭和のコント55号時代、舞台の上で坂上二郎さんとともにカメラの撮影枠からあえて飛び出す動きを見せていた。「9階のハギモトさん!」にはその香りが漂い、二郎さんに思い切り跳び蹴りを食らわす時のような狂気さえも含まれている。

 そこにいるのは「スター誕生!」「24時間テレビ」などの司会で世間に愛される「欽ちゃん」ではなく、個人の心を激しく揺さぶるコメディアン萩本欽一だ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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