吉田羊 父は長崎で被爆 新作映画に込めた平和への思い「体験した人の話を受け継いで、語り継いで…」

[ 2025年9月3日 07:00 ]

インタビューに応じた吉田羊(撮影・河野 光希)
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 【インタビュー】女優の吉田羊が出演する映画「遠い山なみの光」(監督石川慶)が9月5日に公開される。1980年代のイギリスに暮らす女性・悦子が長崎で暮らしていた時代を回想する中で、戦争の傷跡が残る長崎を生きる人々を描く。80年代の悦子を演じた吉田は撮影前にイギリスで英語のレッスンを受け、全編にわたって流れるような英語で演技した。一切の妥協のなく体当たりで挑んだ吉田の胸には、長崎で被爆を経験した父から受け継いだ平和への強い祈りがあった。(望月 清香)

 今作で吉田が演じたのは長崎からイギリスにわたって約30年が経った女性。セリフは全て英語な上にミステリアスで感情が読めない。難役への挑戦を「雲をつかむような感覚。どこからスタートしたらいいのか悩みながらでした」と振り返る。

 吉田はイギリス英語を習得するため、撮影が始まる半年前から仕事の合間を縫ってダイアログコーチの元で勉強。撮影1カ月前には数週間のホームステイを経験した。ホームステイの目的は語学学習だけではない。吉田は「私が演じる悦子はイギリスで30年にわたって暮らしている役だったので、実際にイギリスで生活することでしか得られない体の変化を感じたいと思いました」と語った。

 イギリスで実感したのは髪の毛と肌の変化。「イギリスは水が硬水なので、シャワーを浴びただけで髪の毛がバサバサになりました。パン食なので、お肌も乾燥します。それからガーデニングをやる習慣があるので、少なからず日焼けするし、シミそばかすもできやすい環境だと感じました」。吉田は髪の毛のパサつきや日焼けをメイクで隠すことなく、そのままの姿で撮影に挑んだ。また、ホームステイの経験を生かして、冷蔵庫の中身について監督と何度も話し合った。「一つ一つの体験が悦子の血肉になっていく感じがしました」。パズルのピースを埋めるように、実体験一つ一つを通して役を体に落とし込んでいった。

 徹底した役作りで説得力ある悦子を表現した吉田。今作にはひときわ特別な思いがあった。吉田の父は長崎県出身。5歳の時に爆心地から8キロの場所で被爆している。「オーディションの話を聞いた時から、長崎にルーツをもつ私のところにこの役がやってきてくださったという思いでした。大切にこの役を演じたいと思いました」と今作への覚悟を口にした。

 吉田は幼い頃から父の被爆体験を聞いていたという。「父は当時、病気で入院をしていて、医師からは“もう長くないだろう”と言われていました。しかし、原爆投下の日を境になぜか容体が回復したそうです。退院して家に帰る途中に見慣れている川に原爆で亡くなった方々のご遺体が流れているのを見て、祖父が父に“お前は原爆で亡くなった方々の命をもらったんだ。だからその命を大切にしなさい”と言ったと幾度となく聞いています」。

 この夏、戦後80年を迎えた。被爆者の平均年齢は86歳を超え、被爆者は年々減少している。吉田は“被爆2世”として戦争を次世代に伝える使命を感じている。「ほとんどが戦争を知らない世代になってきている。実際に戦争を体験した人の話を受け継いで、語り継いで、つないでいくことを一人一人が意識することが大切だと思います。憂いしも世界では今も戦争が続いていて、個人的には戦前に近づきつつあるような不穏な空気を感じる。そんな時代だからこそ、こういう作品を見て、考えて、その考えを共有することが必要だと思います」。力強い眼差しで紡ぐ吉田の一言一言が、戦争を知らない世代の1人である記者に重く響いた。

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