プロレスラー・上谷沙弥 アイドルを離れ実現した夢の先 「最高の選手になりたい」

[ 2021年6月25日 09:45 ]

「シンデレラ・トーナメント」決勝戦で宿敵・舞華と激闘を繰り広げた上谷沙弥(C)スターダム
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 【牧 元一の孤人焦点】リングの上にただ1人。そこは勝者に与えられた場所だ。自分だけに向けられるピンスポットの光と観客の拍手。アイドルとしてかなわなかった夢がプロレスで実現した。

 6月12日に東京・大田区総合体育館で、所属団体「STARDOM(スターダム)」恒例の「シンデレラ・トーナメント」を制した上谷沙弥(24)はこう振り返る。

 「最後にリングに立った瞬間、ダンスをやっていた頃のことやアイドルをやっていた頃のこと、いろんなことがフラッシュバックしました。アイドル時代は報われませんでした。私は背が高いし、体も大きいし、いくら努力しても、いつも立ち位置が端の方でした。トーナメントで優勝して最後にリングに1人で立って、みなさんに拍手していただいて、初めてセンターに立てた気持ちになりました」

 プロレスラーに転身して約2年。キャリアは浅いが、リングの上では既にアイドルの面影は霧散している。一つ一つの動きに力感があり、攻めに激しさがある。トーナメント決勝戦では、宿敵の舞華を相手に、非情さも見せた。痛めている左足への執拗(しつよう)な攻撃だ。

 「舞華は同期で、この人だけには負けたくないという思いがありました。これまで一度もシングルで勝ったことがなかったんです。左足にテープを巻いていたから、痛めていたのは知っていたし、準決勝でもダメージを与えられていたので、そこを狙っていこうと決めていました。今までと違う自分を見せられたと思うし、それだけ本気の勝負でした」

 何よりも特筆すべきは、勝負を決めた「フェニックス・スプラッシュ」だ。トップロープから、後ろ向きに飛び、回転しながら相手に落下する技。これまで重要な試合で繰り出して来たが、今回が最も完成度が高いように見えた。

 「あの技は感覚の鋭さが必要なんです。後ろ向きに飛ぶから、練習でもケガをするリスクがあって、そう何度も練習できません。トーナメント決勝で放ったものは、これまでの中でいちばんスピードと威力があったと思います。威力があり過ぎて自分の内臓も痛くなるくらいでした」

 試合後のリング上で「ワンダー・オブ・スターダム(白いベルト)」への挑戦を表明。7月4日に神奈川・横浜武道館で、王者の中野たむと対戦することが既に決定している。中野はアイドルの道からプロレスの世界へと導いてくれた先輩だ。

 「特別過ぎる存在で、挑戦できるのは本当にうれしいです。お互いに感情を爆発させて、いろんなものがあふれ出る試合になると思います。これまでシングルで2回勝っているんですけど、1回は丸め込みで、もう1回はオーバー・ザ・トップロープ。今度はフェニックス・スプラッシュで3カウントを取って『正真正銘のスターダム』になりたいです」

 勝てば、初めて白いベルトを獲得するが、もちろん、そこがゴールではない。防衛を重ね、メインイベントで戦い続けてこそ、トップレスラー、不動のセンターと言える。

 「課題はいっぱいあります。まずは何があってもぶれないメンタルの強さを持つこと。体の強さ、筋肉、身体能力なども大事ですけど、トップに立つというのはスターダムを背負うということなので、辛いことがあっても折れない精神力が必要だと思います。私は弱い部分があるので、それがいちばんの課題です」

 アイドルを離れ、夢は実現した。しかし、実現してみれば、その先にさらに大きな夢があった。

 「誰が見ても最高の選手になりたい。キラキラ輝いていて、正義感があって、強さがある。強いだけじゃなく、優しさ、愛があって、戦う相手を輝かせられる。ほかの選手が『敵わないな、この人には』と思う選手になりたい!」

 闘いのゴングは鳴ったばかりだ。

 ◇上谷 沙弥(かみたに・さや)1996年(平8)11月28日生まれ、神奈川県出身の24歳。2014年、バイトAKBのメンバーに。18年、スターダム★アイドルズに加入。19年、スターダムのプロテストに合格。身長167センチ、体重55キロ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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