「ハロー張りネズミ」大根仁監督の長回し 役者は“修行”も…自由な芝居を引き出す

[ 2017年8月11日 15:30 ]

「ハロー張りネズミ」全話の脚本・演出を手掛ける大根仁監督(C)TBS
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 俳優の瑛太(34)が主演を務めるTBSの探偵ドラマ「ハロー張りネズミ」(金曜後10・00)は、映画「モテキ」「バクマン。」などで知られる大根仁監督(48)が全話の脚本・演出を担当。ゴールデン・プライム(GP)帯としては異例の制作態勢を敷いた。大根監督の長回しによる撮影に、瑛太や女優の深田恭子(34)は「修行」と声を揃える。同局の韓哲プロデューサーに舞台裏を聞いた。

 「島耕作」シリーズの漫画家・弘兼憲史氏(69)が1983〜89年に「週刊ヤングマガジン」で連載した同名名作漫画をドラマ化。東京都板橋区下赤塚の「あかつか探偵事務所」に舞い込む誰も引き受けたがらない依頼に、主人公・七瀬五郎(通称・ハリネズミ)(瑛太)と謎の美女・四俵蘭子(深田恭子)、相棒の探偵・木暮久作(森田剛)、探偵事務所所長・風かほる(山口智子)の仲間たちが挑む。第1話は人情もの、第2話と第3話は企業サスペンス、第4話と第5話(11日放送)はホラー(超常現象)と幅広いエピソードを描き、話題を呼んでいる。

 「湯けむりスナイパー」「モテキ」「まほろ駅前番外地」「リバースエッジ 大川端探偵社」などテレビ東京を中心に数多くの深夜ドラマを手掛けた大根監督がGP帯ドラマの脚本・演出を務めるのは今回が初。韓プロデューサーは「今は映画が主戦場の大根監督が『テレビドラマに忘れ物がある』とGP帯ドラマを初めて脚本・演出するということ自体がいわば企画であったので、全話やっていただくのは企画の根本で、大根監督の希望でもありました。『ハロー張りネズミ』を原作とすることも大根監督の提案でした」と企画意図を説明。

 「ですが、連続ドラマ10話をすべて演出するだけでも並大抵のことではなく、まして全話、脚本も書くというのはテレビマンの常識の範疇を超え、超人的です。当然、準備期間も撮影と仕上げ期間も通常より時間がかかります。台本は放送の1年前から書き始めてもらい、撮影も放送の4カ月前から始めました。なので夏のドラマですが、たまに桜が咲いていたりします。ドラマ放送直前は脚本執筆、準備(ロケハンや美術打ち合わせ)、撮影での演出、編集や音楽入れなどの仕上げ、取材が入り交じり、監督は殺人的なスケジュールでした」と明かす一方「そのおかげで、全10話を大根監督の世界観で完全に全うすることができ、見ていただく方にとっても、どの話も同じクオリティーで楽しんでいただけると思います」と手応えを示した。

 番組公式サイトのインタビューで、瑛太が「とにかくたくさん撮るので、ある意味の修行というか、俳優にとってとても厳しいところに身を置いてやっているので、集中力を保つのが本当に大変です」、深田が「普通のドラマではカットを分けて撮影されますが、大根監督はカットを分けずに長回しで撮っていくので、長い時間とても緊張しながら演じています。何度もテストを重ねて『だんだん温まってきましたね』という言葉から本格的に撮影が始まる感じなので、演技の修行になるというか、とても勉強になります」と語り、2人が「修行」というワードを口にしたのが印象的。

 大根監督の撮影方法について尋ねると、韓プロデューサーも「映画に比べて撮影にかけられる時間が少ない連続ドラマでは、通常、監督が事前にカット割りをして効率的に撮影をしていきます。しかし“大根組”では、カット割りをせず、どのシーンもお芝居を『通し』(シーンの最初から最後まで切らずに演じる)で撮影します。グループショットもそれぞれの寄りのショットもすべて通しで撮影するので、1シーンを時には何十回も役者さんは演じないといけません。主役の瑛太さんは特に台詞が多く、間違えればまた最初からの繰り返しですから『修行』と語るのももっともです」とキャストに理解を示した。

 「ですが、大根監督は役者への愛情がとても深い人です。一見、役者へ酷な仕打ちをしているようにも見えますが、この撮影方法は役者の自由な表現を引き出す手法でもあります。細かいカット割りを積み上げていく撮影方法は効率的ですが、お芝居はパーツパーツを組み合わせるようにしてもらうため、結果として役者さんにつながりのところで寸分違わぬ芝居をしてもらうなど様々な制限をかけることになります。大根監督は何回も繰り返し同じシーンを撮影しますが、それぞれはなるべく自由にやってもらい後で編集で調整するので、役者さんへの制限はほとんどなく、どんどん新しい芝居が生まれたりします」と、その効果を解説。

 「山口智子さんは毎回1シーン撮影が終わるたびに『ヨッシャー!!』と雄叫びを上げるのですが、大変さを乗り越えた思いとともに、毎回、自分の芝居をやり切った充実感があったからだと思います。あれだけのキャリアがある方ですが『こんなに自由に演じることができたのは初めて』と話されてました。ですから、あとで編集するときは膨大な素材量があって、つなぐのにとても苦労するのですが、役者さんの芝居が伸び伸びとして自然な空気感に満ちているなあと、僕自身見ていて、とてもワクワクします」。ドラマは折り返し地点。後半も“大根ワールド”に期待が高まる。

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2017年8月11日のニュース