【内田雅也の追球】油断も慢心もない「人生」

[ 2026年3月27日 08:00 ]

東京ドームで練習を見つめる阪神・藤川監督(撮影・光山 貴大)
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 屋根付きで密閉された東京ドームの外では細かい雨が降っていた。春雨である。

 催花雨(さいかう)という美しい言葉がある。春先、桜に早く咲くようにと、催促し、せき立てるように降る雨をいう。

 近年、桜は関西よりも東京の方が早い。球場近くの小石川後楽園の桜はもう満開に近いらしい。

 昨年春、監督就任1年目の藤川球児に「桜は見ましたか?」と問うと「全く目に入りません」と答えた。この時、勝負勘や大局観は周囲の美しいもの、風景や映画や音楽や読書や……で養われると返した。半年後、優勝を決める秋にはベンチから月を愛でていた。感性が高まり、采配も幅が広がっていた。連覇に挑む2年目。桜や雨にも心を寄せる余裕はある。

 周囲は充実した戦力に優勝候補にあげている。たとえば、スポニチ評論家陣の順位予想では26人中23人までが阪神優勝としていた。他紙も同じような予想である。

 ここまで評価されるとどこかで心の隙が見えてもおかしくないが、取り越し苦労のようだ。

 開幕前日の練習は午後4時に始まった。直前に内野守備走塁コーチの田中秀太が打席から三塁線にボールを転がし、たたきつけていた。東京ドームは今月初め、7年ぶりに人工芝を張り替えた。阪神にとっては――ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に参加していた佐藤輝明らを除き――初めてのグラウンドである。細心の注意を払い、バウンドを確認していた。

 すると、ライン際に転がる打球はファウル地域に切れず、逆にフェア地域に戻ってきた。内野ノックでも同じように「転がり」を確認し、選手たちは準備の一つにできた。藤川の言う「凡事徹底」は今や、言わずもがなで浸透している。

 だから気負いや力みなどは感じられなかった。緊張も興奮もあろうが、平常心で開幕を迎えようとしている。藤川も「まあ、ふつう、ですね」と平然としていた。

 藤川が現役引退を発表した2020年9月、<野球に人生を投影する(できる)選手>だと書いた。当欄を読み「野球に人生を感じます」と話したこともあった。

 いまは春。藤川率いる阪神は秋までの長いペナントレースに向かおうとしている。勝つこともあれば負けることもある。人生として受けとめ、立ち向かう覚悟をみてとった。 =敬称略=
 (編集委員)

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