【内田雅也の追球】新人への訓示は警句

[ 2026年1月8日 08:00 ]

<阪神新人合同自主トレ>藤川監督(左端)から訓示を受ける(中央から右へ向かって)立石、谷端、岡城、早瀬、能登、神宮、山崎(撮影・岸 良祐)
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 阪神の新人合同トレーニング初日に「素直であれ」と説いた監督・藤川球児の訓示には先人の教えが詰まっている。昨年11月の優勝祝賀会で「先人が残していった言葉には正解が多い」とスピーチしたように、藤川も学んできた姿勢である。

 野村克也は「素直な選手は伸びる」とよく話していた。阪神監督時代、自ら作成した教則本『ノムラの考え』に記し、「他人の意見や批判を謙虚に聞き入れ、自分の成長の糧とする姿勢」を伝えていた。『論語』にある「耳順」に基づいた人生哲学でもあった。

 阪神から南海(現ソフトバンク)に移籍し、その野村の下で活躍した江夏豊も阪神キャンプで臨時コーチをした際、「聞く耳を持つ」という謙虚さを説いていた。

 松下幸之助の言葉をまとめたロングセラー『道をひらく』(PHP研究所)に<素直に生きる>の項がある。逆境でも順境でも<その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである>とある。<素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚(うぬぼれ)を生む>と警鐘を鳴らしている。

 先の野村も阪神監督の3年間はいずれも最下位に終わった。失意のなか監督を退いた後「阪神の選手はわがままだった」と著書に記していた。いわゆる暗黒時代だった。

 藤川がまだプロ1~3年目の若手だった当時の話である。藤川も素直さや謙虚さを欠いた姿勢を目の当たりにしていたかもしれない。

 だから新人選手への訓示でも「まずは素直にやっていくこと」と語りかけた後、「愚痴とか、なんであの選手にはチャンスがあって自分には……といったことは一切聞かない」とくぎを刺した。松下の言うように、卑屈になってはいけない。

 幸い、今の阪神は黄金期の入り口に立っていると言える。過去3年間で2度の優勝を果たした。暗黒時代など遠い昔のようである。だからこそ、今が大切なのである。

 19世紀、英国の思想家、歴史家トーマス・カーライルの名言にある。「逆境に耐えうる人間は数多くいよう。されど、順境に耐えうる人間は何人いようか」

 順境にあって油断やうぬぼれを戒め、素直で謙虚でありたい。新人への訓示は、チーム全体に向けた警句でもあった。=敬称略= (編集委員)

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