【内田雅也の追球】旅の終わりの本塁打

[ 2025年8月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―5DeNA ( 2025年8月28日    横浜 )

<D・神>2回、伊原はスクイズを狙い、DeNAバッテリーに外されて失敗(撮影・藤山 由理)
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 阪神のチームバスが横浜スタジアムを去った後、用具担当が大型トラックに荷物を積み込んでいた。深夜、東名・名神を走り、甲子園まで運ぶのだろう。

 阪神は夏の長旅を終えた。きょう29日、7月31日以来となる甲子園での試合を迎える。長期ロードは14勝7敗1分け。2勝1敗ペースの上々の成績である。

 「明日から甲子園に久々に戻れます。楽しみです」と敗戦後、監督・藤川球児は言った。「明日」「甲子園」「楽しみ」を繰り返した。

 むろん反省も検証もしているのだろうが、切り替えは早い。昨秋の就任当初、負ければ批判渦巻く点についても「大丈夫です」と話していた。「いろんな声が出ますが、それを聞く時、僕はもうそこにはいませんから。明日を見ています」

 試合は、9回表に阪神らしさが見えた。3本の長短打で2点を返し、1点差に迫った。

 それまでの得点も失点もすべて本塁打によるものだった。佐藤輝明の33号2ランで先制したが、2ラン、ソロ、2ランと浴びていた。

 「ホームランは野球の華」という。確かに、白球が描く放物線、スタンドに飛びこむ光景、ダイヤモンドを回る選手には夢がある。

 ただし、たとえば、イチローは「フライボール革命」など近年の大リーグに面白みを感じないと話していた。走塁や戦略などの「考える野球」や「綾」を見たい。

 何も今に始まった論議ではない。ベーブ・ルースが本塁打を量産し始めた1920年代、「野球本来の醍醐味(だいごみ)は単打の応酬にある」と反論したのがタイ・カッブだった。

 阪神の強みも本塁打に頼らない得点力と本塁打を浴びない投手陣にある。本塁打はリーグ3位、被本塁打はぶっちぎりで最少である。何しろ広くて打球が飛ばない甲子園を本拠地としている。

 「綾」はスクイズを外され、その裏に同点弾を浴びた2回の攻防だったかもしれない。

 横浜は少し暑さが和らいでいた。ツクツクボウシが鳴き「秋を告げる」セキレイが舞っていた。見上げた空には入道雲に筋雲が混じる「行き合いの空」だった。

 甲子園に帰る。大観衆が待っている。旅装を解き、いま一度、強みを思い返す時だろう。 =敬称略=
 (編集委員)

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