「他のチームのことも頭に…」石川の高校球児に生まれた絆、複雑な心境――被災地の高校野球のリアル

[ 2024年7月22日 08:00 ]

石川大会初戦をコールド勝ちした日本航空石川
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 今年1月の能登半島地震で被災した石川県で、高校野球を通して勝敗を超えた絆が芽生えている。今春選抜に出場した日本航空石川の中村隆監督が、今夏の選手権大会初戦を5回コールド勝利で終えた試合後に明かした。

 「(他校に)練習場所を貸したりしたり、一緒に練習する中で絆みたいなものができた。選手たちは他の高校の選手の名前を覚えたりする中で、自分たちのチームのことだけではなく、他のチームのことも頭の中にあると思う。頑張ってほしいなと思っていると思います」

 日本航空石川は、近隣の穴水高や輪島高などに練習場所を提供したり、合同練習を実施したりしてきた。そうして被災した学校同士で助け合ううちに、昨年までと比べて学校間での交流が深まった。

だからこそ、同校の夏初戦が被災した能登高になったことに中村監督の心境は晴れなかった。

 「何とも複雑な気持ちがありました。どの高校も大変をしてきたけど、特に能登半島の学校は練習や生活がままならない中でここに来ている。正直、能登の学校とはできるだけ当たりたくなかった。勝負事なので仕方ないですけど、出来るならば当たりたくないな…と思っていました」

 宝田一慧(いっけい)主将(3年)は、能登高と対戦することの意味を考えてきた。「能登高校が地震で経験した苦しい思いが自分たちには分かる。その気持ちを持って真剣勝負で戦おうと思いました」。試合は67分間の降雨中断を挟む一戦となった。その恵まれない状況の中でも互いに全力プレーを貫いた。

 日本航空石川には、初戦敗退となった今春選抜後、地域住民から感動をもらったことに対するお礼の電話や手紙が届いた。宝田主将は「諦めないプレーが心に響いたと言っていただいた。自分たちが頑張ることで、そういう気持ちになってくれる人がいる」と高校野球の力を実感した。

 全力で取り組むからこそ選手たちに絆が芽生え、その姿を見ている観客にも力がわいてくる。まだ以前のような日常生活を取り戻せていない被災地に、例年と変わらない球音が響くことの重みを実感する夏になっている。(記者コラム・河合 洋介)

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