【内田雅也の追球】調子を整える役目を果たす「自分との対話」

[ 2024年3月20日 08:00 ]

オープン戦   阪神10―9ソフトバンク ( 2024年3月19日    ペイペイD )

浮かない表情でベンチに引き揚げる村上(撮影・岸 良祐)
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 最大5点差の劣勢を跳ね返しての逆転勝利で気分も晴れたが、阪神には異変と言える変調が起きていた。

 先発・村上頌樹が5回を投げ、2本塁打を含む11安打を浴びて8失点。2発被弾も8失点も最優秀選手(MVP)、最優秀防御率に輝いた昨季にはなかったことだ。

 さらに昨季最多安打の中野拓夢は5打席連続三振を喫した。これも昨季にはなかったことだ。

 もちろん、オープン戦ではあるが、変調がはっきりと表に出ている。開幕まで残り10日を切り、この苦い経験をいかに生かしていくか。昨季日本一チームの真価が問われる時期である。

 野球は失敗のスポーツであり、野球の神様はよく「失敗から学べ」と言う。失敗を糧にするためには、まずは現実と真摯(しんし)に向き合うことではないだろうか。

 その点で近本光司が今月初め、興味深いことを話していたのを本紙で読んだ。オープン戦で安打がよく出ているのだが、冷静に自分を見つめている。「ボールはまだ見えてはいない。いくらオープン戦で打っても、シーズンに入ったらダメというのはよくあること」

 そして、春先のテーマを「どれだけ自分と話しながらできるか」と語っていた。

 この「自分との対話」が調子を整える役割を果たす。脳科学者・茂木健一郎が<意識と無意識が対話することで緊張を整える>と著書『緊張を味方につける脳科学』(河出新書)に書いている。緊張は調子と言い換えることができるだろう。

 脳の情報プロセスには体の末端から上がってくるボトムアップと、意識が体に伝えようとするトップダウンの両方があるそうだ。ボトムアップで調子をはかり、トップダウンでコントロールしようとする。無意識と意識が対話しているわけだ。

 <自分の無意識がどういう性質を持っていて、どういうことを課すとどういう反応をするのか、確かめていくことで、無意識を上手く整えることができるようになっていくのです>。

 いざマウンドや打席に立った時は、意識ではなく無意識での動作が物を言う。常に意識と無意識が対話しながら、調子を整えていくのだろう。

 村上も中野も、いや他の選手たちも、自分と向き合い、考え、悩んでいよう。そんな自分の中での対話で道が開ける。今はそんな不安な開幕前なのである。 =敬称略= (編集委員)

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