【内田雅也の広角追球】スパイの大リーガーがカタカナで書いたサインボール 阪神・若林忠志の遺品で発見
Photo By 提供写真
【内田雅也の広角追球】多くの史料が並ぶなか「これは何だろう?」と担当者や関係者が首をひねっていた。
阪神タイガース草創期からチームを支えた投手で、監督も務めた若林忠志(1965年、57歳で他界)の長男・忠雄さん(88)がその遺品約30点を甲子園歴史館に寄託した今月21日のことだ。サインボールのなかに1つ、カタカナで
「モベルグ」
と書かれたものがあった。
同じボールには大きな英文字でフランク“レフティ”オドールとある。度々来日し「日米野球の懸け橋」となる功労者だ。「ボゾへ」とニックネームで若林宛てと記されている。1932(昭和7)年と分かる数字もあった。
ただ「モベルグ」については、忠雄さんも「分かりませんね」と首をひねっていた。
「モベルグ、モベルグ……」と考えて、ひらめいた。「モー・バーグ!」と思わず叫んだ。
当時、来日大リーガーだったモー・バーグではないか。「Moe Berg」とつづる。英語読みで「モー・バーグ」だが、ローマ字読みと言うのか、たとえばドイツ語で「山」を意味する「Berg」はドイツ語で「ベルグ」と発音する。
モー・バーグは自身の姓を英語読みの「バーグ」ではなく、「ベルグ」と自称していたのだろう。そのまま、習いのカタカナで書いたのだ。
モー・バーグはどんな選手だったのか。両親はユダヤ人。ウクライナから移民としてニューヨーク・マンハッタンでクリーニング店を経営していた。1902年3月、次男として生まれた。「モー」はニックネームで本名は「モリス」という。
名門プリンストン大に進み、言語学を専攻。卒業後、コロンビア大法科大学院を修了した。ラテン語、フランス語、スペイン語に堪能で日本語も理解した。9カ国語を話すことができた。
野球史に詳しいノンフィクション作家、佐山和夫さん(87)の『日米野球裏面史』(日本放送出版協会)によると、パリのソルボンヌ大へ留学する希望を抱いており、学費稼ぎのため、大リーグ入りに動いたそうだ。野球には少年時代から親しみ、大学では一塁手や遊撃手として活躍していた。1923年、当時ブルックリンを本拠地としていたロビンス(現ドジャース)に入団。遊撃手としてデビューした。
だが、大リーグでも成績は芳しくなく、マイナー暮らしも経験した。俊足とは言いがたく、捕手転向で出場機会を見いだそうとしていた。
サインボールにあった1932(昭和7)年10月末、全日本大学野球連盟の招きによって、オドール、テッド・ライオンズとともに初めて来日した。バーグは控え選手だったが、ホワイトソックス時代にバッテリーを組んだナックルボーラーの右腕ライオンズの相手として選ばれたようだ。
東京六大学の各校を指導して回った。この時、法政大で出会ったのが若林だった。
ハワイ生まれの日系2世、若林は1929(昭和4)年4月、法政大に入学。主力投手として30年秋、創部初優勝に導いていた。この32年は秋のリーグ戦で2度目の優勝を果たしていた。
来日3選手の中心だったオドールとは阪神入団後も交流が続いた。この時が初対面だった。そして「ボゾへ」とサインボールを贈ったのだ。戦後1949(昭和24)年、2リーグ制を推進した際も若林を励ました。
このなかにバーグがいたわけだ。佐山さんの先の書に兄サミュエルさんの証言がある。帰国後、「こんなに楽しい旅は他ではできない」「こんなに美しい国は他に知らない」と話していたそうだ。バーグはすっかり日本のファンとなり、六大学指導後も日本に残り、各地を周遊している。
2年後、1934(昭和9)年11月に来日した、ベーブ・ルース、ルー・ゲーリッグら大リーグ選抜軍にバーグが選ばれたのは、通訳など、日本に通じていたことが大きな理由だったろう。
全国各地で18試合を行った。全日本軍は全く歯が立たず、日米混合の紅白戦2試合を除き、16戦全敗だった。沢村栄治(当時京都商)が快投を演じた11月20日、静岡・草薙球場での0―1敗戦は今も語り草となっている。
バーグはほとんど試合に出ていない。幾度かチームを離れ、別行動をとっていた。一体、何をしていたのか。特に目を引くのが遠征終盤、11月29日である。
試合は大宮公園球場で行われ、23―5で全米軍が圧勝している。しかし、バーグはチームを抜け出し、当時東京で最も高い建物と言われた築地の聖路加病院にいた。
花束を買い、ジョセフ・グルー駐日アメリカ大使の娘を見舞うと偽って、エレベーターで最上階の6階に向かい、さらに屋上の鐘楼に上った。そして16ミリのムービーカメラで東京湾の軍艦、造船所、兵器工場、製油所や、皇居、工場群などを撮影している。
このフィルムは後の日米開戦後、東京大空襲の資料になったと言われている。東京市内の模型作成に利用されたそうだ。
バーグはスパイだったとされる。野球選手として引退後は戦略諜報局(OSS)=中央情報局(CIA)の前身=の一員として、ヨーロッパを回り、ドイツの原子爆弾開発の情報や細菌戦、超音速航空機についての調査を行っている。
佐山さんの書では兄サミュエルさんの話として、モーは家では着物やハッピを着て過ごし、日本人がいかに清潔で好意的だったかがわかる。日本の真珠湾攻撃をいかに嘆いたかが記されている。日本を愛していたのだ。
そんな話をボールの所有者、忠雄さんにすると「スパイですか……」と思いをはせた。「私も戦後、知ったスパイがいました。戦争の悲しい話ですね」
忠雄さんはこれら父の遺品を戦中戦後、日本から現在暮らす米カリフォルニア州と大切に保管してきた。「みんな空襲で焼けてしまったと思っている。後世に時代を伝える、父を伝える意味で、取っておいてよかった」
このボールをはじめ、遺品は甲子園歴史館の若林コーナーに展示されている。 (編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。2009年、スポニチ本紙(大阪本社発行版)で『若林忠志が見た夢』を連載。大幅に加筆し、2011年、同名の著書(彩流社)を出した。同年、阪神球団は社会貢献、慈善活動、ファンサービスに顕著な業績を残した自軍選手を表彰する「若林忠志賞」を創設した。
野球の2023年9月26日のニュース
-
“不惑の獅子”40歳コンビ中村&栗山が躍動 わずかな望みの逆転CSへ“惑わず行けよ”
[ 2023年9月26日 23:40 ] 野球
-
ロッテ、ポンセ攻略できず7連敗 吉井監督「気持ちはあったが、技術的に足らなかった」
[ 2023年9月26日 22:59 ] 野球
-
広島・新井監督 本拠地CSへ前進「何とか残り3試合、全員で頑張っていきたい」
[ 2023年9月26日 22:40 ] 野球
-
西武・おかわり 今季代打13打席目初ヒットが千金V撃!「打ててよかったなと思います」
[ 2023年9月26日 22:28 ] 野球
-
ヤクルト10度目零敗で阪神戦9連敗 わずか3安打の打線に高津監督「消極的に見えた」
[ 2023年9月26日 21:59 ] 野球
-
西武・おかわり 同点9回決勝打から一挙6得点でスイープ阻止!CS進出へ望みつなぐ
[ 2023年9月26日 21:53 ] 野球
-
普段は筋トレしない落合博満氏がロッテ時代に唯一鍛えておくべきと主張した部位は?
[ 2023年9月26日 21:53 ] 野球
-
巨人・岡本和真 7戦ノーアーチで2試合10打席連続無安打に チームは23年ぶり2戦連続0―1敗戦
[ 2023年9月26日 21:47 ] 野球
-
阪神・岡田監督 27日のレギュラーシーズン甲子園最終戦で「感謝の言葉を言おうと思ってます」
[ 2023年9月26日 21:36 ] 野球
-
巨人ブリンソン 試合前まで対戦打率5割の東から第1打席に安打も…降板直後に代打出される
[ 2023年9月26日 21:30 ] 野球
-
オリックス・ドラ3斎藤響介 45年ぶり快挙逃すも4回零封 4四死球には「悔しさと課題が残る」
[ 2023年9月26日 21:15 ] 野球
-
巨人23年ぶり2試合連続、今季6度目の0―1敗戦 球団初、同一監督での2年連続Bクラス27日にも決定
[ 2023年9月26日 21:09 ] 野球
-
DeNA・東が球団タイの12連勝「祐大がお母さんのように指示くれた」 セ歴代最高勝率に並ぶ16勝2敗
[ 2023年9月26日 21:05 ] 野球
-
中日 ついに80敗目…今季初4連勝ならず 球団ワーストは83敗、残り5戦どうなる
[ 2023年9月26日 21:04 ] 野球
-
オリックス・斎藤響介好投 元相棒も喜ぶ「やっぱり凄い!」 野球引退の理由は「響介の真っすぐ」
[ 2023年9月26日 21:00 ] 野球
-
ロッテ今季最悪7連敗で0・5差の4位…主力の大量離脱にネット「この戦力じゃ阪神の岡田監督でも無理」
[ 2023年9月26日 20:57 ] 野球
-
巨人・原監督「何かが足りないんでしょうね、このチームにはね」 23年ぶりの2試合連続0―1敗戦
[ 2023年9月26日 20:49 ] 野球
-
巨人・山崎伊織に遠い10勝目 中5日で1失点完投も無援 2桁勝利王手から6戦勝ちなし
[ 2023年9月26日 20:37 ] 野球
-
DeNAがCS進出王手 27日に引き分け以上で3位以内確定 東克樹が16勝目、球団タイ記録の12連勝
[ 2023年9月26日 20:31 ] 野球
-
巨人屈辱!23年ぶり2戦連続0―1敗戦 1失点完投の山崎伊織を見殺し 27日にも2年連続Bクラス決定
[ 2023年9月26日 20:30 ] 野球
























