【内田雅也の追球】ゴロで決まった味わい深い勝利 正解のない野球の「不易流行」でありたい

[ 2022年4月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-1中日 ( 2022年4月27日    甲子園 )

<神・中>5回 1死二、三塁 追加点を生む遊撃ゴロを打つ糸原(投手・勝野)(撮影・成瀬 徹) 
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 阪神の3点はいずれもゴロであげたものだった。適時打のない地味な攻撃で、相手ミスにも助けられた。ゴロの効用と言えばいいだろうか。少し列挙してみる。

 2回裏1死、糸井嘉男の猛ゴロは一塁手ダヤン・ビシエドを強襲し(ミットを弾いたか)、右翼線に抜ける二塁打となった。2死後、高山俊の遊ゴロは京田陽太のグラブの下を中前に抜け(失策)、同点とした。

 3回裏、西勇輝の二塁寄りゴロを阿部寿樹が一塁悪送球し無死二塁(記録は内野安打と失策)。近本光司のセーフティーバントも内野安打で一、三塁。糸原健斗が二塁右に転がし、一塁走者二封の間に勝ち越した。

 5回裏1死二、三塁も糸原の高いバウンドの遊ゴロで走者が還った。

 幸運だけではない。ゴロで2打席連続打点をあげた糸原はいずれの打席も追い込まれた後、勝野昌慶の低めフォークに食らいついた。

 元監督の金本知憲(本紙評論家)が現役時代に語っていた「ボテボテの効用」を思う。著書『覚悟のすすめ』(角川書店)では次の例を出している。<無死二、三塁で2ストライクと追い込まれたとする。内野が後ろに下がっていたら、意識的に内野ゴロを打てば、確実に1点が入り、二塁走者も三塁に進む>。まさに糸原の打撃だった。

 近年、大リーグの流行から日本でも「フライボール革命」が広まっている。可能になったボールのトラッキング(軌道)データの集計から、フライを上げる方が得点になる確率が高まるというのが基本的な考え方だ。

 神事努監修『新時代の野球データ論 フライボール革命のメカニズム』(カンゼン)に詳しい。同書で吉田正尚(オリックス)が「野球って、これだけ長い歴史があるのに、いまだに“正解”がないんです」と話し、フライボール革命も「三振が増える」というリスクを指摘している。

 転がせば、相手失策も含め何かが起きるのも野球である。三振を避け、ゴロを打ちにいった姿勢に流行に左右されない矜持(きょうじ)をみる。

 やはり、いつまでも変わらぬ本質(食らいつく姿勢)に、新しさをとりいれ変化していく――「不易流行」でありたい。地味だが、味わい深い勝利だった。 =敬称略=
 (編集委員)

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