【内田雅也の追球】阪神の新人左腕、桐敷の「まっスラ」は武器になる

[ 2022年3月7日 08:00 ]

オープン戦   阪神3-1楽天 ( 2022年3月6日    甲子園 )

<神・楽>2回無死、ハーフスイングで空振りする辰己。投手桐敷(撮影・北條 貴史)
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 阪神の新人左腕、桐敷拓馬の直球の多くは「まっスラ」だった。まっすぐとスライダーを合わせた俗語だ。直球がナチュラルにスライドした。

 これは武器になる。打者は直球と見て、打ちにいくと小さく鋭く曲がる。左投手のまっスラは特に右打者に有効で、内角球は詰まる。

 かつて、まっスラの威力を示した好例が左腕・間柴茂有だ。日本ハム当時の1981(昭和56)年、15勝無敗で優勝に貢献した。15連勝は2013年、田中将大(楽天)が24連勝するまで、長くプロ野球記録だった。

 当時ロッテで対戦していた落合博満が引退後、テレビ番組で「いい当たりをすればファウル。中に入れようとすると詰まってサードゴロ」と手を焼いた話をしていた。

 その間柴も勝てるようになったのは初の2けた勝利をあげた80年からだった。コーチ・植村義信からフォークを教わり、まっスラを生かせるようになった。同じくまっスラ左腕の遠山昭治(奬志=阪神)もシュートを覚え、幅が広がった。

 まっスラ左腕は左打者を苦手にする場合が多い。危ないのは内角直球がスライドし、甘く入る場合である。その点でスタメンに左打者6人が並んだ、この日の楽天打線は格好の試金石だった。

 結果は4回を内野安打1本で無失点の好投。何より光ったのは、左打者内角へのツーシーム(シュート)である。

 たとえば、1回表2死、4番・島内宏明への初球、内角ツーシームで空振りを奪った。2回表先頭、辰己涼介へ1ボールからの2球目も同じ球で、踏み込んで打ちにきたが、切れ込んできた球にバットを止め、後方へのけぞった。ハーフスイングの空振りだった。

 同じツーシームは右打者の外角にも使った。田中和基(2回表)、和田恋(4回表)、追い込んでから投じ、ともに遊ゴロに切っている。
 本人はまっスラについて「力んでスライドしていた。修正したい」と話したそうだが、くせ球として生かす投球を心がければいい。特に右打者内角への切れ味はほしい。

 ツーシームに加え、フォークもある。速球は140キロ台中盤で剛速球はないが、特徴的なまっスラを生かす球をすでに備えている。プロで通用する投球だと直感する。

 試合前、冷たい雨が降った甲子園球場には日がさし、陽炎(かげろう)が立っていた。明るい兆しである。 =敬称略= (編集委員)

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2022年3月7日のニュース