「真っ向勝負のナンパ」から始まったオリ6位・横山楓の物語 お父さん投手が果たした2年越しの約束

[ 2021年12月15日 08:00 ]

オリックスのドラフト6位横山
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 今年のドラフトでは育成を含む128選手が指名された。夢をかなえた選手の中で、セガサミーの最速153キロ右腕・横山楓投手(23)が抱く思いは特別だった。

 運命の出会いが宮崎学園3年時にあった。エースだった横山は、大分から練習試合に訪れていた杵築の女子マネジャーに一目ぼれ。監督にバレないタイミングを見計らい、投球スタイルのように真っ向勝負した。「LINE(ライン)を教えてください」。1学年上で他校の選手からの告白を、後に妻となる愛さんは受け止めた。

 横山は東都大学リーグの国学院大で活躍し、20年に社会人野球のセガサミーに進んだ。交際を続けた愛さんと同年1月に結婚し、8月には稔(じん)君が誕生。順風満帆な人生。だが、愛さんは「プロを目指すなら2年間は我慢するよ」と夢をくすぶらせる夫を気遣った。横山は大卒選手の指名が解禁となる2年目のプロ入りを約束し、愛さんは大分県の実家に戻った。横山を野球だけに集中させるためだった。

 今年の9月22日から始まった都市対抗の2次予選。初戦の明治安田生命戦で救援した横山は1回2/3を5失点。直球を連打されるドラフト候補に、スカウト陣は首をかしげた。

 絶不調の原因はプレッシャーによる不眠。指名を勝ち取るためには2次予選でのアピールが不可欠だった。布団に入っても「指名されなかったらどうしよう」と眠れない。浮かぶのはコロナ下で大分を訪れる機会も少なく、気づいたら歩きはじめていた我が子の顔。単身赴任を許した妻の顔。一睡もできない日々が続くも、マウンドでは無我夢中に腕を振った。

 ドラフト当日の10月11日は、JR東日本との第3代表決定戦。セガサミーのベンチ裏ではドラフト会議が中継されたが「怖くていけない」と目もくれなかった。救援待機のため、5回にブルペンに歩みを進めると、吉田高彰捕手(25)が笑顔で「おめでとう」と迎えた。プレッシャーから解放されることを感じ「やっと試合に集中できる」と思った。オリックスからドラフト6位指名を受け、家族の挑戦はハッピーエンドを迎えた。

 晴れ舞台の都市対抗では別人のように躍動した。2試合に登板し、4回1/3を1失点で5三振。豪腕復活で4強入りに貢献して社会人野球に別れを告げた。プロは厳しい世界だが、これからは家族がそばにいる。(記者コラム・柳内 遼平)

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2021年12月15日のニュース