1066勝監督の共通点は「勝負の心」 川上氏長男・貴光氏 原監督は「円熟的な境地に来ている」

[ 2020年9月10日 07:00 ]

05年11月、巨人阪神OB戦での川上哲治氏(左)と原監督
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 故川上哲治氏の長男でノンフィクション作家の貴光(よしてる)氏(74)が監督通算1066勝目を挙げ、父に並んだ原辰徳監督(62)を祝福した。2人の共通点に挙げたのが、「勝負の心」。私情を挟まず勝利に徹し、批判も恐れない。選手を適材適所に配置し、戦力を最大限に生かして白星を積み重ねる姿を「円熟的な境地」と表現した。

 父も天国で喜んでいると思います。1066勝の数字にジャイアンツの後輩が並び、超えていくのはめでたいこと。アッパレです。

 原監督と父の共通点は「勝負の心」で戦っていることだと感じます。「こんなことをやると批判されるんじゃないか」というような「私(わたくし)」がない。「どうすれば勝てるのか」、「ベストの作戦が何か」に徹底している。それが似ているように思います。

 父は1966年、社主の正力松太郎氏にこっぴどく叱られたことがあるんです。6月2日に金沢で広島に0―11のぶざまな敗戦を喫した帰京後、顔を見るなり「君は私情で采配を振ったろう。二度とやったらおまえはクビだ」と。0―5から送り出した中継ぎの高橋明が打ち込まれ、6失点しながらも交代させなかった。ふがいない投球に腹を立て彼をさらしものにしたんです。父は「キ○タマが縮み上がった」と言い、それ以来私情を挟まず勝負の心に徹しました。

 原監督が増田選手を投げさせたのは、批判を承知の上だったと思います。コロナ禍の過密日程の中、中継ぎ戦力を温存しなければいけない。長い目でシーズンを見た上で「今何をすれば一番ベストか」と判断したんだと思うんですね。どうすればチームを維持できるのか。それが監督としては必要な考えですし、勝負の心でしょう。

 原監督が現役を引退してNHKで解説をされていた時に父も解説者で、顔を合わせることも多く一緒にゴルフもしていた。最初の監督就任直後は「危ういというか、危なっかしい」という目で見てました。だって、まだ若かったし始めたばっかりだから。ある程度実績を積み、安定し始めた頃からは「若手を育てるのがうまい」と印象を話していました。

 父は、足が速かった柴田勲を日本で初めてのスイッチヒッターにしました。日本で初めて中継ぎ専門職をつくり、宮田征典を「8時半の男」にした。適材適所。人を見て持ち味を最大限に生かす方法を常に考えていた。原監督も代走のスペシャリストを育成した。そういう編成で勝っていくことを考えている。

 「監督は“漬物石”のようでないといけない」と父は言いました。約20年間通った禅のお寺で教わったんでしょう。軽すぎても重すぎても良い漬物はできない。細かいことまで口を出さず、どっしり構えていた。原監督もある種、円熟的な境地に来ている感じがします。原監督の下で言われた通りにやれば優勝できると、選手がついてくる。選手が信頼感を持っている。監督批判にもならない。

 V9時代の「川上野球」を継承したのが藤田監督。その藤田監督が、原監督をドラフトのくじで引き当てました。伝統は引き継がれていくのです。 (ノンフィクション作家)

 ◆川上 貴光(かわかみ・よしてる)1946年(昭21)1月24日生まれ、兵庫県出身の74歳。慶大卒業後、トヨタ自動車勤務を経て、作家に転身した。著書に「父の背番号は16だった」「“ムッシュ”になった男―吉田義男パリの1500日」などがある。母は宝塚歌劇団卒業生の代々木ゆかり(本名・川上董子)。

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