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【イマドキの仕事人】健常者と障がい者の壁「オモチャ」で突破

[ 2016年9月5日 05:30 ]

障害のある子どもたちに、オモチャの使い方を実演する吉田沙也加さん
Photo By スポニチ

 健常者だけでなく、目や耳に障がいのある子供も遊べるオモチャがある。「共遊玩具」と呼ばれるもので、玩具メーカーには一般市販品に工夫を加え、共遊玩具に変える社員がいる。障がいがある人、ない人が一緒になって遊ぶことを期待し「障がいも個性だと思える社会になってほしい」と願っている。

 東京都葛飾区、京成立石駅から徒歩5分。玩具大手タカラトミーのオフィスで、動物の形をしたフィギュアシリーズ「アニア」のゾウをこね回すように触る女性の姿があった。社会活動推進課の吉田沙也加(29)だ。「目の不自由な子が楽しく遊べるよう、改良の余地を探している」という。

 同課の仕事は、障がい者がオモチャで遊べる環境づくりをすること。障がいのある子供が集まる催しや施設に、オモチャを持っていくこともある。そこで得たアイデアを持ち帰り、自社製品を共遊玩具にする企画も出す。各地に講義へ出掛け、障がいへの理解を深める活動もしている。

 アニアは手のひらサイズながら、リアルな造形で人気。視覚障がい者も遊ぶことを想定して作られており、その目印としてパッケージに業界共通の「盲導犬」を模したマークがついている。

 「目の不自由な人に言葉でゾウを説明するのは大変。でも触って遊べば形が分かる。長い鼻が動くのもイメージできます」。それだけに細部へのこだわりが強い。足裏の肉球から毛並みまで、確かめるように指を細やかに動かす。アニアは、希望者に動物の足跡形の立体シールや点字シールをプレゼントしている。

 新幹線の形をしたカメラ玩具「プラレールカメラ」には、耳の不自由な人が遊べる仕掛けを付け加えた。撮影ボタンを押すと、モニター画面にシャッターが下りる映像が映る。「シャッターを切る映像が映れば、耳の不自由なユーザーも撮影の瞬間が分かる」。ちなみに、こうした玩具には「盲導犬」ではなく「うさぎマーク」が付く。

 頭の上で結んだ黒い大きなリボンに、フリルが施された黒のロリータワンピースが目を引く名物社員だ。バッチリ大きな目はアイドル歌手のよう。会社員らしからぬ服装も「これで普通に出勤しています」と笑う。大学時代はコスプレーヤーやイベントMC、読者モデルとして活動。いまも「週末は好きなバンドのライブに行き、客席で大暴れする」という。

 現在の部署に異動して5年。当初は「障がいという問題に暗いイメージを持っていた」と振り返る。忘れられない一言がある。業界の一大イベント「東京おもちゃショー」での出来事だ。会場片隅の共遊玩具ブースに立つ吉田の前で、一人の母親がある玩具を指さした。「あー!うさぎマーク!あんたのオモチャやん」と元気な関西弁。隣に立つ女の子の耳には補聴器が着いていた。「このオモチャ見たとき“ウチの子、コレで遊べるんや”って泣いたわ。この子のこと育てられると思えた。ありがとう」

 自分の携わっているオモチャがこの親子の救いになっていると知り、うれしかった。「人の命を救えたのかもしれないと思いました」。その母親の言葉に吉田自身も支えられている。

 「オモチャは子供の世界を広げるもの。誰かに勝ちたいと思ったり、ルールを守ったり、遊びの中に社会で必要なことがある」が持論。だが福祉の現場では「遊び」が後回しにされがちだと感じている。「補聴器やリハビリ器具などが優先されるのは当然だと思います。でも施設に古びたオモチャしかないのを見ると寂しくなる。どんな子も、ポケモンやトミカの新車など流行のオモチャで遊びたいはず。オモチャはし好品でなく、生活必需品だと思う時もある」と残念がる。

 夢は「障がいも個性の一つと思える社会」だ。4年後、東京にやってくるパラリンピックが待ち遠しい。「選手のパフォーマンスを間近に見れば、障がいに対する考えが変わるはず」と期待をにじませる。オモチャに込める思いも同じ。健常者と障がい者の距離を縮めるツールであってほしいと願っている。 =敬称略=

 ▽タカラトミー 2006年、大手玩具メーカーのタカラとトミーが合併して誕生。主な人気製品にトミカ、プラレール、リカちゃん、ベイブレード、チョロQ、黒ひげ危機一発などがある

 ▽タカラトミーの共遊玩具への取り組みは1980年(昭55)に設置された「ハンディキャップ・トイ研究室」にさかのぼる。音の鳴るボールから始まり、現在は約100点の共遊玩具を製造。電源スイッチはON側に突起をつけるなど、業界全体でルール整備が進んでいる。盲導犬マークは1992年、国際共通マークとして承認された。「黒ひげ危機一発」(タカラトミー)や仮面ライダー「変身ベルト DXゴーストドライバー」(バンダイ)などにも付いている。

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