×

旅・グルメ・健康

【全国ジャケ食いグルメ図鑑】「ぎょうざ」の店の目玉はギョクビー

[ 2016年7月15日 05:30 ]

「まさよし食堂」はタイル張りでモダンに見えるが、木製の引き戸がシブイ!
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。昼酒が大好きな久住さん。でも「目玉焼き」で一杯ってあんまり経験ないですよね。実はこれがビールのアテに最高なんです!しかも、卵3個を“時間差攻撃”で焼き分けた仰天の“三つ目玉”に出合っちゃいました。

 栃木県鬼怒川で発見。駅前の温泉街を抜けた街道沿い。「まさよし食堂」。一目でグッときた。

 引き戸は木製で紺の暖簾(のれん)もレトロだが、少し離れてジャケット(店構え)全体を見ると、タイル張りでなかなかモダン。

 「ぎょうざ」とでかでかと書いたノボリ。さすが栃木、宇都宮餃子(ギョーザ)の流れか。電飾看板の「定食」の字に、縦の長体がかかり過ぎている。ラーメンの提灯(ちょうちん)は小さすぎ。ショーケースの湯飲み茶わんには「若の花」「貴の花」と印刷されている。いつの時代だ。いろいろワクワクする店だ。

 写真を撮っていたら、中からおなかがポコンと出たおじちゃんが出てきて「どうぞいらっしゃいませ!」と声をかけてきた。望むところだ。

 暑い日の午後1時前だったが、店内はクーラーが入っていない。開けた戸口と窓から、いい風が入ってくる。表につるした風鈴がチリーンと鳴った。ちゃんと風鈴が風鈴として機能している。今や珍しい光景だ。

 ビールと餃子を注文。外気の入る店での昼のビールは最強だ。メニューを見る。店構えをレコードのジャケットに例える僕からすると、メニューは歌詞カードだ。この「酒のつまみ」というメニューが最高。刺し身が時価の他は「オール五○○円」。その品書きが、まるで詩のようだ。ただ淡々と、ギョーザ、鳥から揚げ、焼魚…と並んでいるところは、内田百間の「御馳走帖」のようだ。あるいは、まど・みちおの詩の「ぞうさん」かというくらい余白が広い。

 餃子が来た。小皿に6個。ニンニクが効いていてウマい。でも軽いのがいい。しかし餃子と同じ500円の「目玉焼き」が気になる。どういう形態で出てくるのか?

 カウンターの上の「味自慢 とんかつ」という暖簾が存在感たっぷり。その下には黒電話、蚊取り線香もある。古い紙幣がたくさん入った額。でき過ぎのような昭和感。

 しばらくしてやってきた目玉焼きは、想像を超えていた。卵3個で、丸い皿が全て覆い隠されている。目玉じゃない。水木しげるの目玉おやじでも、赤塚不二夫の白目がつながってる警官でもなく、これは手塚治虫の「三つ目がとおる」だ。

 む、片側が不自然に盛り上がっている。卵をめくると、千切りキャベツ、キュウリ、ニンジンにマヨネーズが添えられて潜んでいた!こんなデザインの目玉焼き、初めてだ。

 しかも3個の卵がそれぞれ、ウエルダン、ミディアム、レアに焼き分けてあってそれが一つになっている!時間差で合体させていったのか。ウエルダンの部分の裏の白身はかなり焦げていたが、そこがなんとも懐かしおいしくて、しょうゆを垂らすとビールのアテに最高だ。この時点でこの店、最高!と思った。

 冷やし中華を頼む。すると、てっぺんにレモンの輪切りを乗せ、そのレモンを皿にするようにからしが練りつけてあった。初めて見た。どうしろというのだ。

 具はオーソドックスにきゅうりとチャーシューの細切り、それに輪切りのトマトとチャーシュー。そして錦糸卵ではなく、なぜか炒(い)り卵風。でも汁もさっぱりしていて、実においしかった。

 店のおじちゃんは「80歳まで店はやりたい。そしたら借金がなくなるから」と笑っていた。いいお声だ。きっと実現するだろう。  

 ◇まさよし食堂 栃木県日光市鬼怒川温泉大原1060、東武鉄道・鬼怒川温泉駅から徒歩6分。(電)0288(77)0515。営業は午前10時~午後11時。不定休。全25席。駐車場あり。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

続きを表示

この記事のフォト

バックナンバー

もっと見る