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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】山口で出合った生ワサビ“爽めん”

[ 2015年8月14日 05:30 ]

山口・小野田「まるよし食堂」
Photo By スポニチ

 話題作「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。夏といえば、そうめん。読者の皆さんは薬味に何を入れますか?ショウガ、みょうが、ネギ、大葉…。いろいろあるけど、全国有数のワサビ生産量を誇る山口県で“生ワサビ入り”を初体験。戦後70年。終戦当時に開業した老舗食堂ならではのやさしい味に元気をもらいました。

 山口県の、山陽本線と小野田線が接続する小野田駅。ここに降り立ったのは午前11時前で、昼食にはまだ早い。だが駅前にこの食堂を見つけた瞬間「今、入らないでどうする?」と思った。骨董(こっとう)品や、中古レコード店で見つけた幻の名盤(のような気がするもの)と同じだ。出合ってしまったのが運命だ。

 どうです。この外観。つまりジャケット。風格がありますね。風雪に耐えてますね。ちょっと風化もしてますね。看板は「まるよし食堂」なのにのれんは「大衆食堂まるよし」。よくあるんですよ、古い店には。新しい店にはこういう「どっちなんだ食い違い店名」は無い。長続き店の特徴。

 鉢植えもいいし、あの昔のわかりにくい町内マップもボクには店の歴史勲章のように、特典シールのように味わいある。

 値段も品名ももはやどっかに吹っ飛んじゃったサンプルも、カワイイじゃありませんか。肉うどん、チャンポン、かつ丼、チャーハン、焼きそば、だろうか。洗いざらしののれんがまぶしい。店に入る。誰もいない。「やっていますかぁ」というと、腰の曲がった小さなおばあちゃんが出てきた。「はーい」。予想を裏切らないシンプルな使い込まれた食堂だ。4人がけのテーブルが4卓。うち1卓は物置的様相を呈す。テレビはあるけどついていない。昼前の光と静けさ。

 壁のメニューを見ると、3分の1の品書き短冊が外されている。だんだんに廃止されてメニューが減っていったのだろうか。このありさまが、沈黙の歴史を物語っている。

 麺類はうどんが中心で、焼きそばはあるが日本蕎麦(そば)は無い。九州に近い中国地方だからか。うどん圏なんだろう。チャーハンではなく「焼きめし」なのもうれしい。「おむすび」というメニューもなんだか頼もしいではないか。「かやくうどん」「他人丼」、そしてライスではなく「めし」というのが、関東の食堂ではあまりお目にかかれない。

 迷ったが「冷やしそうめん」を頼んだ。この日はすでに猛暑だったし、昼には早いので軽めにしておきたかった。出てきたそれの、チャーミングだったこと!

 具にキュウリ、プチトマト、シイタケ煮、かまぼこ。薬味は万能ネギっぽい細ネギの千切りと、なんと摺(す)った生ワサビ。そうめんをワサビで食べるのは初めてだ。ショウガしか知らない。これがおいしかった!野菜がちゃんとおいしいんです。カマボコも東京のより歯ごたえが強くプリンとしている。ワサビ汁もよかった。生だからだろうな。氷も入っていて、あっという間に食べちゃった。

 入り口の横に石油ストーブがあり、鉢植えがのせてあり、下におばあちゃんのウオーキングシューズがそろえて立てかけてあるのもいじらしい。たくさん元気をもらって、仕事に出て行きました。ごちそうさま!

 ◇まるよし食堂 店主は82歳の元気なおばあちゃん。終戦時に中国から引き揚げ、母親が開業。「大変な時代を生きてきたので、お客さんにおいしかった!と言ってもらえればそれが一番です」。山口県山陽小野田市日の出3の7の16、小野田駅から徒歩1分。(電)0836(83)3217。営業は午前10時~午後6時。土、日曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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