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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】ステキなステーキ量2倍

[ 2015年8月12日 05:30 ]

所狭しと食材や酒が並ぶ店内で笑顔を見せる店長のマンスール・コルドバッチェさん(右)と妻の門馬きよみさん
Photo By スポニチ

 酷暑は安酒場で飲む冷たいビールで乗り切る“センベロライター”のさくらいよしえ。向かったのは夏にふさわしいエスニックなイラン料理居酒屋。東京・上板橋の「花門(かもん)」で一行を迎えてくれたのは“ダジャレ大王”のイラン人店主だった。店で提供される激安&デカ盛り料理誕生の裏に心温まる秘話が。目から落ちるのは汗か涙か…。

 来日27年のイラン人・マンスールは上板橋じゃ結構な有名人だ。画家であり居酒屋店主でもある。「花門にカモン」が合言葉で1分に1回ダジャレを投下し、客を困惑させて喜んでいる。そんな彼が時折、生コン車のバイトをしていると噂が流れた。「そうヨ。バイトの(店員の給料)ためバイトしてマンス」と、明るい。

 店は焼きそばに空揚げ、豚キムチまで全品400円で信じがたいデカ盛りが売りだ。名物はカリフラワーにニンニク、セロリなど活力みなぎる漬物や、クミンやコリアンダーなどスパイス香る肉野菜煮などのイラン料理。「値段一律、量は倍」と決めたのは21年前。

 「ある日、ニンプさんが旦那さんと来たの。彼女は800円のサイコロステーキを食べたかった。でも高いから頼んだのは380円の焼きそば。栄養つけさせてあげたかったと思ったヨ。その夜全部380円に決めた。あとにおいとくと気が変わっちゃうかもしれないから」

 数日後、ニンプが再訪。突然価格破壊したステーキに驚き注文。「うれしくてサイコロ5個のところ、つい10個入れちゃった。もうかったから値下げしたって」とうそをついた。これが、量が倍の始まり。

 濃ゆい緑茶ハイを飲みながら、わしは「愛と情け」について考えた。ふと「こんちは」とご近所さんが来た。「いらないお皿を下さい」と張り紙をしたところ町民が日参するらしい。客人は次々来る。2人目は絵の生徒さんでお中元のお届け。3人目はおからのお裾分けで4人目は豆腐と卵の物々交換。なんなんだここは、よろずやか!

 「人生相談もアルヨ。自殺したいとかね。わかった。背中押すならいつでも押すヨ、マンスを呼んで!」。このしゃく熱のスマイルに死ぬ気もうせるに違いない。情けは人のためならず、とか言う。しかし彼は己のためというより本能だ。ニンプと会った日、自家用車もマイホームもおあずけにしたとマンス。「サイコロステーキの彼女のおなかにいた子は今21歳。日本中の21歳は全員自分の子みたい」

 本能で生きる男に後悔なし。だからどうか心の叫び聞いてくれ。「皆さん、値段も量も変えず花門がつぶれない(もうかる)アイデア募集してマンス!」  (さくらい よしえ)

 ◆花門 店主のマンスール・コルドバッチェさんの人柄もあってアットホームな居酒屋だ。イラン料理のほか、卵の数が1~9個まで自由に選べるベーコンエッグなど“デカ盛り”料理はいずれも400円。4人で食べても多いほど。残せばテークアウトもできる。カウンターに並んだ「赤霧島」、「中々」などの本格焼酎は水割り400円、ロック500円。料理が付いて3000円からの飲み放題(なんと時間無制限だ)コースも人気。「花門」の日常やマンスールさんの活躍などはブログ「花門にカモン!」でチェック!東京都板橋区上板橋3の6の7。(電)03(3935)9222。営業は午後6時から午前1時6分(この6分に意味がある。店で聞いてください)。火曜日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

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