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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】これぞ昭和の味「ザ・中華そば」

[ 2015年6月12日 05:30 ]

サビをまとい風雪にかすれた「高砂屋食堂」の看板
Photo By スポニチ

 話題のドラマ「孤独のグルメ」の原作者・久住昌之さんが、外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。昔、中古レコード店でボロボロのジャケットの風合いに魅了され、思わずジャケ買いしたことありませんか?そんな食堂を見つけちゃいました。しかも、店内は不思議なメニューと迷宮のインテリアの数々。最後には「5つ玉のソロバン」が待っています!

 茨城県日立市の国道を、人の運転する車の助手席に乗って移動していた時、発見。今、確かにすごい中古盤のLPジャケットがあったような気がする、と思いわざわざ車を止めてもらって、歩いて戻った。

 「高砂屋食堂」。サビをまとい風雪にかすれた屋号。たばこ切手ハガキの文字は消えている。ブリキが剥がれてきたのか、白い木の棒が縦横に打ち付けられている。だがどうだ、この貫禄。

 のれんが出ている。営業してる。しかしそののれんは、そばで見ると、文字の剥離を補修したのか、透明荷造りテープでベタベタに貼り付けられている。

 中に入る。昼時をわずかに過ぎていたためか、客はいなかった。「いらっしゃい」バラの花模様のエプロンを着たおばあちゃんが、水を持ってきてくれた。店内はジャケット(店構え)をまったく裏切らない昭和っぷりだった。

 ずらりと並んだメニュー。「チキンライス」と「チャーハン」が「4キンライス」「4ヤーハン」にしか見えない。メニューの上におそらく時計を外した跡であろう四角い部分があり、その白い色がもともとの壁の色だ。地層を見る思い。だが、ピカチューのポスターも貼ってある。現役だ。

 テーブル席5に小上がり。この小上がりの壁のディスプレーが素晴らしい。ペナント、小さな三度笠(がさ)、大きな王将、蝶の羽の飾り物、土産のれん……どれもこれも懐かしく古く、黒い。誰が描いたか知らない絵も見落とせない。その真ん中にブラウン管テレビ。隙がない。

 畳の上には、持ち運びできるマガジンラック。そこにちゃんと今日の新聞が入っている。生きている。トイレに続く廊下も毎日拭き掃除されているのであろう、飴(あめ)色に輝いている。ただ滅びるのを待っている店ではない。

 床を見ると、店員が厨房(ちゅうぼう)と店内を行き来する導線がものの見事に磨(す)り減って、色が変わっている。若狭塗りで研ぎ出された模様のようだ。

 ラーメンを注文した。これが本当に「ザ・中華そば」という昔味。ネギ、海苔(のり)、ホウレン草、ナルト。チャーシューが普通の豚バラ肉だった。たぶん、肉うどんなどと兼用のものであろう。それもまたよし。ウマイ。400円。泣ける値段。

 レジスターは無く、そこには小さな無地のメモ帳と5つ玉のソロバンがあった。

 ◇高砂屋食堂 かつ丼630円。天ざるそば780円。茨城県日立市鹿島町3の3の20、JR常磐線日立駅から徒歩21分。(電)0294(21)1057。営業は午前10時~午後2時で、しかも不定休。電話をしても、だいたい「やってないよ」と言われる。のれんが出てるかどうかが“迷宮の扉”を開くことができるたった一つの鍵。

 多くのロックファンにとってジャケ買いといえばまずコレだろう。アートワークを手掛けたのは故アンディ・ウォーホル氏。「男性」をここまで強調したデザインはなかなか無い。ジッパー部分には本物の金具を使い、下げたり上げたりできる。しかも“中”を覗(のぞ)くとブリーフをはいており、遊び心たっぷり。一部の国では、わいせつだとしてジッパー部分も画像のままにして開かなくした。また、ジッパーのメーカーは発売国ごとに異なり、日本盤は「YKK」だった。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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