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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】不思議な「味」わい中国家庭料理

[ 2017年7月28日 12:00 ]

中華家庭料理の店「味」の店構え
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。飲食店には、旧店舗の設備をそのまま利用する「居抜き」での出店があるけれど、店名もジャンルも違うのに、看板までそのまま使っちゃう店は聞いたことがありません。何とも不思議な中華店、見つけちゃいました。

 西武線小平駅前で発見した。どうです!このユーモラスなジャケット(店構え)。この看板。手作り感が半端ない。水餃子(ギョーザ)と書かれた餃子形の黄色い板がカワイイ。ラーメンの丼のフチが反っているのもいい。そもそも、なんという名前の店なのか。

 この店が現在の店になる前、数年前か、ここを通りかかったことがある。たしか立ち食いそば屋だった。なぜ覚えているかというと、その電飾看板に「天丼牛丼カツ丼」と書いてあるのだが、天丼とカツ丼の文字が完全に消えていた。それが意図的に消されたのか、退色して消えてしまったのかわからないけど面白かったから写真に撮ったのだ。

 その看板が、現在も残されたまま別の店になっている。なぜ残した。丸の中に「徳」も前の店のものの気がする。なぜ残した。取ろうとしたが届かなかったのか。取れなかったのか。まさか。とにかく謎が多い店だ。だが、なんとなくカワイイ、憎めないジャケットの店だ。

 サンプルケースには「焼き餃子¥300」がある。「水餃子¥300」はサンプルがない。商品名のない値段だけの料理がある。たぶん、マーボーナスとチンジャオロースではないか。あとは「冷し麺北京ジャジャメン¥700」のサンプル。ケースの中はそれだけで、ガランとしている。いろいろぞんざいな印象だ。だが妙に親しみが感じられる。

 エアコンの室外機の上にホワイトボードがあり11時から14時半までランチタイムとあり、3つのメニューがある。「北京風ラーメン¥650(スープを付きます)」というのも不思議だ。ラーメンにさらにスープが付くのか。それとも汁なしラーメンなのか。

 ホワイトボードの最後には「味店」とある。「味店」という店名なのか。妙な名前だ。となると看板の「味」というのは店名か。いや店名は「味店」なのではないのか。

 謎だらけだが「まあ、そのへんはだいたいでやっています、ハハハ」というような呑気(のんき)さも感じられる。

 店に入った。早速、餃子とビールを頼む。カウンターだけの小さな店。中国の人と思われる気さくなおばちゃんが一人でやっているようだ。カウンター周りがちょっとスナックっぽい。酒の瓶もいろいろあるから、夜は飲みに来る人も多いのかもしれない。壁が真緑で、それが中国っぽい。ビールは缶ビールでコップもスナックっぽい縁が金色のものだった。

 出てきた焼き餃子は小ぶりでこんがり焼けていて、素揚げしたニンニクが添えてあった。タレには唐辛子の種がたくさん入っていた。この餃子がおいしかった。皮も自家製らしい。300円は安い。思わず水餃子も頼んだ。こっちもうまい。皮の味は水餃子の方がわかる。香辛料がちょっと日本と違う。ビールのアテに最高だ。しかし、餃子皿の並べ方がやはり少しぞんざいで、でもそこが家っぽい。いかにも中国家庭料理っぽい。

 「北京ラーメン」を注文した。出てきたそれは具だくさんの塩しょう油ラーメンという見た目で、鶏肉やエビ、青梗菜(ちんげんさい)、もやし、ニラ、パプリカがのっていた。こういうラーメンは初めてだ。見た目よりあっさりしているが、具材の複雑に重なった味は出ていて日本のラーメンとは違うがおいしかった。これもまた「中国家庭料理」という言葉がぴったりの味。おばちゃんの人柄がストレートに出ている気がする。

 この店は今年になって始めたそうで、その前からやっている店がさほど離れていない場所にあるそうだ。体育会系の学生っぽい男の子がご飯をお代わりしてモリモリ食べていて、おばちゃんはサービスで魚のみりん干しみたいなのを彼に出していた。いつも来ているようだ。

 看板通りの楽しい店。近くにあったら、安くてうまいから、また真っ昼間から餃子でビールを飲みに来たい。しかし正式にはなんて店なのか。聞くの、忘れた。

 ◇味 今年1月創業。メニューには青菜ホタテラーメン(900円)、海老チリ(900円)、北京風味炒飯(チャーハン、600円)、麻婆(マーボー)豆腐丼(600円)なども。東京都小平市美園町2の2の32、西武新宿線小平駅から徒歩1分。(電)042(207)8123。営業時間はランチタイムが午前11時から午後2時30分、夜は要確認。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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