ビートルズ アルバム「レット・イット・ビー」特別盤 最後のライブのきらめき

[ 2021年10月19日 08:30 ]

1969年1月、スタジオで演奏に臨んだザ・ビートルズ(Photo by Ethan A. Russell(C)Apple Corps Ltd.)
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 【牧 元一の孤人焦点】ザ・ビートルズのアルバム「レット・イット・ビー」スペシャル・エディションが発売された。

 プロデューサーのジャイルズ・マーティン氏とエンジニアのサム・オケル氏によるニュー・ステレオ・ミックスなどに加え、レコーディング・セッションの過程で残されたアウト・テイクやリハーサル・テイクなどが収められている。

 子供の頃から40年以上にわたって聴き続けてきたアルバム。あらためて感じるのは、ビートルズの最後のライブが収められていることの重要性だ。

 オリジナル・アルバムの収録曲は計12曲。このうち「ディグ・ア・ポニー」「アイヴ・ガッタ・フィーリング」「ワン・アフター・909」の3曲は、彼らが1969年1月30日に英・ロンドンのアップル・ビルの屋上でライブ演奏したものだ。

 4人は1966年8月29日に米・サンフランシスコのキャンドルスティック・パークで行ったコンサートを最後にライブ活動を休止。以後、スタジオ活動に専念し、歴史的名盤「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」や2枚組「ザ・ビートルズ(ホワイトアルバム)」などを世に送り出した。

 しかし、1969年1月2日、ロンドンのスタジオで、再びライブを行うことを目的としたリハーサルを開始。それから場所をアップルのスタジオに移しながら演奏を続け、その模様の多くをカメラとテープレコーダーに記録した。

 そして、臨んだ1月30日の屋上ライブ。観客は少人数の家族や友人たち、ビル周辺にいた人々。米国のミュージシャンのビリー・プレストンがエレクトリック・ピアノで参加し、「ゲット・バック」「ドント・レット・ミー・ダウン」「アイヴ・ガッタ・フィーリング」「ワン・アフター・909」「ディグ・ア・ポニー」を演奏した。

 その後、4人は最高傑作と言われるアルバム「アビイ・ロード」を作って解散。結果的に、屋上ライブが、ビートルズにとって、最後の生演奏となった。

 「アイヴ・ガッタ・フィーリング」はポール・マッカートニーのボーカルが強烈だ。ポールが激しく歌う曲と言えば、ホワイトアルバムに収められた「ヘルター・スケルター」を思い出すが、歌声の迫力は肩を並べる。これを通常のレコーディングではなく、ライブでベースを弾きながら歌い切ってしまうところにポールの天才性を感じる。曲の後半、ポールとジョン・レノンが別のメロディーを並立させて歌うところでは、希代のメロディー・メーカー2人が出会った奇跡に思いをはせられる。

 「ワン・アフター・909」はジョンが17歳の頃、ポールと出会った直後くらいに作った曲。ビートルズ結成後、レコーディングしたものの、演奏に満足できず、当時まで作品として結実しないままだった。冒頭からジョンとポールの絶妙なハーモニー。ジョージ・ハリスンのギター、リンゴ・スターのドラムも軽快で、最初から最後まで一気に駆け抜ける疾走感がある。このような、きらめく演奏を最新ミックスの良好な音質で聴けるのは、やはり、素晴らしい。屋上ライブでの「ドント・レット・ミー・ダウン」もディスク2で楽しむことができる。

 ポールはブックレット序文に、この「レット・イット・ビー」の映画が近く公開されることを踏まえ、こう記している。

 「映画のオリジナル版は、ザ・ビートルズの解散と関係していた。だから僕は、かなり悲しい作品だとずっと感じてきた。けれど今回の新しい映画は、メンバー4人の間にあった友情と愛情を映し出している。ここには、僕らが一緒に過ごした素晴らしい時間も記録されている。新たにリマスタリングされたアルバムとともに、これはあの時代を思い出させてくれる力強い作品となっている。僕が思い出したいザ・ビートルズはこういうザ・ビートルズだった」

 この作品を聴かずして彼らの音楽は語れない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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