「阿房列車」と未来の「阿呆」列車~名古屋名物・味噌煮込みうどんの味

[ 2016年9月30日 08:40 ]

味噌煮込みうどんのようなもの

 【笠原然朗の舌先三寸】ご当地グルメは“ご当地”で食べるとなぜおいしいのか?

 名古屋で食べる「味噌煮込みうどん」。ぐつぐつと煮えた汁をひとすすり。寒い冬でなくても、湿度むんむん、名古屋の猛暑の中、食べてもうまい。

 暇にあかして赤だしのインスタント味噌汁を使って味噌煮込みうどんのようなものを作ってみた。本家の足もとにも及ばないが、方向性は間違っていない。東海道本線に乗る予定が、間違って東北本線に乗っちゃった、にはならなかった。

 話は飛ぶ。

 鉄道が好きだ。“種族”的には「乗り鉄」。時間があれば目的地へは鉄道を乗り継いでゆっくりと向かいたい。

 乗り鉄文学(そんなものはあるのか?)の最高峰、「阿房(あほう)列車」で作者の内田百けん(1889~1971年)は、「用事がなければどこへ行ってもいけない云うわけはない。なんにも用事がないけど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」(「特別阿房列車」から)。旅費を知人に借金までして、お供のヒマラヤ山系君を伴い12時30分、東京駅発の特別急行第三列車「はと」1等車に乗り込む。

 牽引する蒸気機関車はC62で客車は10両編成。速さは「一時間四十三哩(まいる)から四十五哩」で「線路の切れ目を刻む音を懐中時計の秒針で数えて」みた結果、はじき出した数字。時速69~72キロで疾駆しているわけだ。作品の発表が昭和26年(1951年)1月号「小説新潮」。この時代の特急が意外なほど速かったことがわかる。名古屋に着いたのは何時かは記されていないが、「出るのは五時半」とあるから5時間ほどで東京~名古屋間を結んだのだろう。

 車窓の景色を楽しみ、ついでに車内販売でバナナを売る若い娘をからかい、食堂車に腰を落ち着けて酒を飲む。なんとものんびりした旅だ。

 一方、現代社会では…東京~名古屋間を最速の新幹線「のぞみ」は1時間34分で結ぶ。

 そして今度はリニア中央新幹線。2027年、品川~名古屋間が開通予定。かかる時間はなんと40分。全線の86%がトンネルだから、景色もなにもあったものではない。単なる移動手段である。

 「ちょっとこれから山本屋本店で味噌煮込みうどんを食べてくるわ」とか「中日応援に行くぞ!」とリニアでGo!

 そんなシーンは…たぶんない。

 JR東海は建設費用を9兆円負担。当初2045年に予定されていた大阪までの延伸を8年間前倒しするために政府がさらに3兆円を融資するという。開通に伴う「経済効果は○兆円」などという数字がひとり歩きしているが果たして採算はとれるのか?

 巨額の税金を投入するぐらいなら、いまのままで十分ではないか、と思う。

 車内でうとうと、ゆっくりと本を読む、ぼんやりと景色を眺める、弁当を広げる、缶ビールをプシュッも「移動」という“口実”で得ることができる余分な時間があってこそ。リニアはそんな時代を奪いながら疾走するはずだ。

 夢の超特急が未来の「阿呆」列車にならないように祈る。(専門委員)

 ◎インスタント味噌汁でつくる味噌煮込みうどんのようなもの

 (1)永谷園「ひるげ」を使う。1人用の小鍋で粉末だし2袋分。水を張り、食べやすい大きさに切った鶏肉を投入。

 (2)肉が煮えたら別袋のペースト状の味噌を投入。味に奥行きがないので好みでミリン、常備してある味噌を少し加えて好みの味に。

 (3)うどん、ネギ、生卵を加え、煮込んでできあがり。

 ◆笠原 然朗(かさはら・ぜんろう)1963年、東京都生まれ。身長1メートル78、体重92キロ。趣味は食べ歩きと料理。 

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