【内田雅也の追球】運を招く方法――肝心な敗戦後 連敗で正念場の阪神 「幸運投手」だった伊藤将

[ 2021年6月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1ー3DeNA ( 2021年6月26日    甲子園 )

<神・D>2回1死一塁、伊藤将はDeNA・牧を遊ゴロ併殺打に抑える(撮影・後藤 大輝)
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 敗れた後に書くのも気がひけるが、阪神はついていた。13安打、3四球、1失策で走者17人を出しながら3失点ですんだ。2~8回は先頭打者の出塁を許している。

 特に前半は4本のライナーが野手正面をつき、好守の3併殺もあって無失点でしのいでいた。

 投手の粘り強さを示す指標にLOB%(残塁率)がある。安打や四死球で出した走者をどれだけ生還させなかったかを示す。本塁打に加重をかけた計算式がある。

 野球の統計分析を行うデルタ社のサイトによれば、先発した伊藤将司のそれは登板前まで86・8%と12球団先発投手でトップ級だった。他に青柳晃洋(阪神)が同じ86・8%、森下暢仁(広島)85・5%、小笠原慎之介(中日)86・3%……らが上位だった。伊藤将はこの日、6安打3四球で無失点だったので、さらに数値は上がっている。

 もちろん、走者を背負わないのが一番で、能力評価よりも特徴を表す指標と言えるだろう。運や守備力に左右されると言われる。まさにこの日の伊藤将の投球だった。この新人左腕は「幸運投手」なのだ。

 そんな運やツキがあっても勝てなかった。敗因は前夜同様に打線で5安打1点に終わった。打線が低調期に入っている。

 ただ、勝負事では運を大切にしたい。名人にもなったプロ棋士、米長邦雄の著書に『運を育てる』(祥伝社文庫)がある。副題は『肝心なのは負けたあと』で敗戦後の姿勢を重視している。

 <女神の判断基準は二つである。それ以外のことに彼女は目を向けない>と勝利の女神に好かれる法を記している。<一つは、いかなる局面においても「自分が絶対に正しい」と思ってはならない>と<謙虚さ>をあげる。素直で深い反省が幸運への道となる。

 大リーグ歴代2位の監督通算2728勝をあげたトニー・ラルーサも「野球は人をいつも謙虚にさせてくれる」と語っている。ジョージ・F・ウィルの『野球術』(文春文庫)にある。

 2位・巨人に3・5ゲーム差と迫られた今は一つの正念場である。謙虚に足もとを見つめたい。

 ただし、沈み込んでしまってはいけない。<基本的に悔しがらんやつ、怒らんやつは絶対にだめだ>と星野仙一が著書『星野流』(世界文化社)に書いている。敗戦後、<一番恐ろしいのはガックリしてしまうことなので、「ガックリするよりカッカしろ」と、自分に対してはいつもそう思っている>。

 怒りに加えて大切なのは明るさだろう。米長は女神に好かれる方法の<もう一つ>として<笑いがなければならない>と記している。

 夏の全国高校野球選手権大会の地方大会が南北海道で開幕した。負ければ終わりの高校野球とは異なり、プロ野球には明日がある。謙虚に、そして明るく、前を向きたい。=敬称略=(編集委員)

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