追悼連載~「コービー激動の41年」その83 現役最後の試合で起こった最後の奇跡
2016年4月13日。現役最後の試合でジャズと対戦したレイカーズのコービー・ブライアントは第3クオーター終了時点で37得点を稼ぎ、すでにロサンゼルスのステイプルズ・センターに集まった1万9000人の地元ファンを熱狂させていた。「引退試合としてはもう十分だ」。誰もがそう感じていた。
ジャズが手を抜いていないのはよくわかった。マークしていたゴードン・ヘイワード(現セルティクス)は密着してマークしていたし、今季もジャズに所属している203センチのジョー・イングルスはブライアントより5センチ高い身長を生かして懸命に守っていた。ベンチから出たクリス・ジョンソンも攻守にわたって奮闘。第4クオーターはジャズが75―66と9点をリードしてスタートしたが、先に点を取ったのはそのジャズだった。
その16秒後、ブライアントは3点シュートをミス。ラリー・ナンスJR(現キャバリアーズ)がオフェンス・リバウンドを拾ってボールをリングにねじ込んだが、すぐにイングルスに3点シュートを決められてしまった。1分20秒にはブラジル出身のガード、ラウル・ネトにゴール下でシュートを決められるなど劣勢。そして時間は刻々と経過していった。
第4クオーターの残り3分20秒、ヘイワードがフリースローを2本とも決めたところでジャズは94―84と10点をリード。ブライアントの現役最後の試合は、低迷するレイカーズを象徴するかのような弱さともろさをにじませながら終わろうとしていた。
しかしプレーオフにも優勝にも関係のない試合で、しかも10点をリードされながらも勝ちにこだわっていた選手がいた。そう、それがブライアントだった。終盤になって彼は口を開けて、肩で息をしていた。あえぎ声が聞こえてきそうだった。このとき37歳と234日。故障を重ね続けた脚だけでなく、心肺機能も限界に達していたのだと思う。そして残り3分。レイカーズのファンはなぜ彼が「コービー・ブライアント」だったのか、その真実を知ることになる。それはNBA史上、最も記憶に残る濃密な3分間だった。
ここまで45得点を挙げていたブライアントは“戦闘モード”を続けていく。残り3分5秒、ヘイワードをかわしてゴール下にもぐりこむとポンプ・フェイクで2人のマークを振り切ってシュートを成功。これで8点差となった。ジャズのジョンソンにゴール下でシュートを入れ返されたが、残り2分16秒にはブライアントがフリースローを2本決めて再び8点差。このあたりからレイカーズのファンはこの試合が予期せぬクライマックスに向かっていることを確信し始めた。
残り1分45秒、ブライアントは右45度から、トレバー・ブッカーに体当たりしながらインサイドを突いてシュートを成功。これがこの日51得点目となってスコアは90―96となった。テレビの画面はここでブライアントの表情をクローズアップ。通算26回目となる「50点ゲーム」を達成した背番号24はかがんだまま息を荒げていた。その11秒後、シェルビン・マック(今季はイスラエル・リーグ)のトラベリングで攻撃権はジャズからレイカーズへ。するとブライアントはジュリアス・ランドル(現ニックス)のスクリーンを生かしてイングルスとブッカーの2人を瞬時にドリブルで抜いていった。その好機を見逃さず、右45度からジャンプシュートを成功して最大15点差だった試合が4点差。場内は沸き立ち、ランドルは奇跡を予感したかのようにかすかな笑みを浮かべていた。もしその表情にセリフを入れるなら「なんて凄い選手なんだ」だったかもしれない。
ボルテージは最高潮。ジャズは防戦一方となった。リードしているという雰囲気は完全に消滅。勝者が徐々に敗者になっていくプロセスがそこにあった。そして残り59・7秒、ブライアントが大詰めで真の主役となる。左45度からトレイ・ライルズ(現スパーズ)のマークを寄せ付けず、この日6本目の3点シュートを決めてついに1点差。最前列にいた俳優のジャック・ニコルソン(83)はまだ負けているのに飛び上がって拍手をしていた。レイカーズのベンチにいた選手も総立ち。「これが現役最後を迎えた選手のやることなのか?」。ステイプルズ・センターにはしびれるような電気ショックが走っていた。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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