真央&チャン、シンクロする復帰後の道のり…今求められるのは

[ 2015年12月31日 08:02 ]

浅田真央とパトリック・チャン

 今季のフィギュアスケート界では戦線復帰した2人の選手に世界が注目した。女子の浅田真央(中京大)と、男子のパトリック・チャン(カナダ)だ。ともに、世界選手権やGPファイナルといったビッグタイトルは何度も獲得した実力者。ともに失意のソチ五輪後を1年間の休養に充てたが、なぜか復帰後の道のりもシンクロしている気がする。

 チャンはGP復帰戦となったスケートカナダで羽生結弦(ANA)を下して優勝。ところがSPだけで打ち切りとなったフランス杯は、そのSPで5位に沈んだ。GPファイナルもミスが目立ち、表彰台を逃している。一方の浅田も公式戦復帰となった中国杯であっさり優勝。続くNHK杯は宮原知子(関大高)に優勝をさらわれ、GPファイナルは出場6選手中最下位に終わった。

 実は、弊紙でフィギュアスケートの解説をする岡崎真氏は、両者の復帰直後の試合を「表現力がグッと増し、休養はムダではなかったことを印象づけた」と評価した。言うまでもなく、フィギュアは表現者としての要素があり、競技以外のさまざまな経験が演技そのものに深みを与えることは良く知られている。年齢的にもチャン24歳、浅田25歳。人間的な深みも増してくる時期だ。

 だが、一方でジャンプという要素は、やはりアスリートとしての能力も求められる。現行のジャッジ方式であれば、難度の高いジャンプを決めれば勝利に近づくのも事実だ。そして、このアスリートの側面は、休養後すぐにフルスロットルとはいかないのも現実だろう。なぜなら、体力面だけでなく「試合勘」というアナログな部分、つまり持っている能力を試合で発揮する技能は、試合に出場してなければ確実に衰えるはずだからだ。

 世界中で高い人気を誇る両者だからこそ、忸怩(じくじ)たる思いは想像できる。リンクに戻る決断をしたとき、本人たちにここまでの苦難が想定できていたかは、疑問だ。だが、これを五輪という4年のサイクルから俯瞰(ふかん)してみれば、焦る必要はない。柔道の野村忠宏さん、レスリングの伊調馨(ALSOK)ら近年のスポーツ界のレジェンドたちは、長期休養をのちの栄光につなげている。今求められるのは、現状に下を向くことではなく、前を向くことだろう。(首藤 昌史)

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2015年12月31日のニュース