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進歩する放射線治療 がん細胞のDNAにダメージ 細胞の死滅を促す集学的治療の一角

[ 2025年2月17日 05:00 ]

膵臓がんの腫瘍を選択的に照射するためにIMRTの標的を定めている画像。当院では放射線科ユージン・コイ医師主導で、NBTXR3という新規薬剤を腫瘍に直接注入してから放射線療法をすることによって、さらに治療効果を高める臨床試験を行なっています(引用:Clin Transl Radiat Oncol. 2022 Jan 11:33:66-69.)
Photo By 提供写真

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポート第11回は「進む放射線治療」です。

 【日本の技術も貢献】
 近年さまざまながんの種類に対して、手術や抗がん剤などの治療を組み合わせることによって治療成績を劇的に改善してきた「集学的治療」。その一角を担うのが放射線療法です。放射線の医療応用の歴史は、ドイツの物理学者、ビルヘルム・レントゲンが1895年にエックス線を発見したことに始まり、1890年代から治療へと応用されるようになりました。

 放射線を照射することによってがん細胞内のDNAにダメージを与え、細胞の死滅を促します。最初は皮膚などの表在がんへの治療に限定されていた放射線療法ですが、物理工学技術の進歩により、より深部の病巣へ選択的に放射線を届けることができるようになり、食道がんや膵(すい)がんなど体内のがんに対する治療として重要な役割を担うようになっています。

 放射線療法の技術にもさまざまなものがありますが、現在当院で主に使われているのは強度変調放射線療法(IMRT)と陽子線(プロトンビーム)療法。IMRTは、CTやMRI検査での画像を基に厳密にターゲットする照射範囲を設定し、360度の全方位から少しずつ放射線を当てることによって、病変に線量を集中させて皮膚や周辺臓器へのダメージを最小限に抑えます。当院で膵臓がんや胃がんへの放射線治療は、この技術を使っています。

 陽子線療法は、陽子線が放出された線源から一定の距離でピンポイントに活性化される特長を生かし、より腫瘍を選択的に治療する技術です。例えば食道がんに対して放射線療法を用いる場合、すぐ近くにある心臓や神経にダメージを残さないよう、陽子線療法が使用されています。

 このような療法には、実は日本の技術も大きく貢献してきました。当院で使用されている陽子線治療装置にも日立のものがあります。余談ではありますが、陽子線治療装置のように高額な医療機器は、最大限活用するために、ほぼ24時間フル稼働。日立の技術者の方も病院泊まり込みで機器のメンテナンスをされていて、頭が下がります。

 【患者のQOL保持】
 放射線療法で手術がほぼ必要なくなったがんの種類も多々あります。がんの組織型によっては、頭頸(とうけい)部がん(咽頭がん、喉頭がんなど)、食道がん、肺がん、子宮頸がん、前立腺がん、肛門がんなどにおいて、放射線単独もしくは抗がん剤との併用で、手術をしなくても根治を目指せます。これらの手術には合併症や機能障害のリスクが多く、放射線で根治が目指せるのは患者さんの生活の質を保つ上で、大きな医療の進歩と言えるでしょう。胃がんや膵臓がんでも効果はしっかりと認められていますが、それでの根治が望めるほどの確率ではありません。

 当院では断端陰性(がん細胞を完全に取り切る)の可能性を高めるために、手術前に放射線療法を行うことがあります。ただ、生存予後を改善する科学的証拠はないので、患者さんごとに慎重に放射線の使用を検討しています。一方で膵臓がんに対しての放射線療法が手術と見劣りしない成績を収めている報告もあります。手術が難しい症例や、ご高齢の患者さんにとって、副作用の少ない放射線療法は良い代替治療となり得ます。

 日々進歩を続ける放射線療法。高精度の画像検査との組み合わせにより腫瘍だけを狙って攻撃し、手術をせずに根治を目指せるがんも増えています。いつかは外科医の必要ない時代が来るかもしれません。

 ◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。11年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大医学部で外科研修。15年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。18年から同センターで膵・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。

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